2020-01-01から1年間の記事一覧

偶然 帆船アザールの冒険

海洋冒険小説だ。日本人にとってはあまり大西洋とかカリブ海の島々はあまり縁の無い世界だと思う。アンティル諸島はフランスの植民地だった。現在でもフランスの海外県として存在している。少女のナシマは褐色の肌を持ち、フランス人の母親のナディアとアン…

ノーザンライツ 星野道夫

アラスカで18年間暮らした星野道夫の現地での人との出会いと見聞の記録である。 まずアラスカと思い浮かべてどんなイメージが湧くか。私のアラスカの印象はアメリカがロシアから買った広大な土地。そこには荒れ果てた土地が続き自然が手付かずのまま残ってい…

始皇帝 中華統一の思想

渡邉義浩の始皇帝 中華統一の思想 「キングダム」で解く中国大陸の謎を読了。 前221年に秦の始皇帝が最初に中国大陸を統一した。それから現代に至るまで中国大陸の統一は一時的な分散はあっても現代でも続いている稀有な国だ。漫画キングダムの挿絵も解り易…

ビアンカ・ベロヴァーの「湖」を読了。以前、チェコのプラハに旅行に行ったことがある。プラハの冬の寒さは厳しかった。肌が痛くて歩く人は皆足早に歩いていた。ビアンカ・ベロヴァーはチェコ・プラハ出身の作家である。「湖」はナミという名の少年が幼少期…

バッタを倒しにアフリカへ

前野ウルド浩太郎氏の「バッタを倒しにアフリカへ」を読了。ベストセラー本は基本的に読まないつもりでいたが、何回も店頭で見かけてとうとう購入。感無量。こんなワクワクした新書は初めてだ。力の入れようが違う。光文社も大分、気合が入っているようにみ…

旅に出る時はほほえみを

ナターリヤ・ソコローワの「旅に出る時はほほえみを」を読了。本書は1965年に出版されたソ連時代のSF小説である。正確にはサイエンスファンタジーであって現代おとぎ話。地球の地底を移動出来る怪獣を開発した主人公の(人間) 彼はエリートであり首相に表彰さ…

奇食珍食糞便録

椎名誠の著書を初めて読む。まさかこんなにユーモアがあって面白い人だったとは思わなかった。まずタイトルのインパクトが凄い。糞便録なるパワーワードを初めて聞いた。世界のトイレ事情を綴った本だ。内容の3分の1は世界の珍しい料理について。 私も海外の…

荒木飛呂彦の漫画術

荒木飛呂彦の漫画術を読了。いやあ、これだけ綿密な準備をして漫画を描いているのは荒木氏ぐらいだろう。もう哲学の域に達してるレベル。徹底的に下準備をして自己分析して冷静に論理的に漫画を描いている。世界的にも人気のある彼の代表作でもある「ジョジ…

あたらしい名前

ノヴァイオレット・ブラワヨの「あたらしい名前」を読了。 すごい。ちょっと放心状態。アメリカで移民として生きる上での困難と喜び、貧しい祖国への恋しさと失望の葛藤を若い女性の視点で見事に描いている。 著者のブラワヨはアフリカのジンバブエから若く…

ある青春

パトリック・モディアノの「ある青春」を読了。20歳の男女の出会いを描いた静かでとても美しい小説だ。モディアノは人物描写が上手いなと思った。熟練した技術の持ち主だ。兵役上がりのルイは都会に出たばかり。パリで鬱蒼とした日々を送るオディールの二人…

シュナの旅

良い本は再読するようにしている。記憶力が悪いので直ぐに忘れてしまうので再読するのだが。「シュナの旅」は元々はチベットの民話だったそう。金色の種を探すために西に旅発つシュナ。テアとの出会い。神秘的な雰囲気。宮崎駿の絵には非情な美しさがある。…

戦場を歩いてきた

佐藤和孝の戦場を歩いてきたを読了。私は学生時代からチェチェン戦争とかアフガニスタン戦争とか日本からは遠く離れた異国での出来事にとても興味があった。チェチェン戦争関連ではアンナ・ポリトコフスカヤや常岡浩介の著書も読んでいた。多分、戦争ジャー…

消えたフェルメール

朽木ゆり子氏の消えたフェルメールを読了。面白かった。フェルメールの絵画に起こった盗難事件の話。1990年3月に アメリカのボストンのガードナー美術館でフェルメールの「合奏」とレンブラントとドガの作品が何者かによって盗まれた。今も行方不明のまま。…

ヤマザキマリの偏愛ルネサンス美術論

久しぶりの新書。ヤマザキマリの著作はこの本で二冊目。いや内容が濃い。ミケランジェロからラファエル、ダヴィンチ、ダンテまで登場する人物評である。冒頭にはカラーの画像もあるので大変満足。 白黒の画像も多数収録。どこかで見たことがある画があってで…

水木しげるのラバウル戦記

水木しげるは93歳まで生きた。もしかしたら若くして戦死していたかもしれないが。すごい強運の持ち主というか身体がすごい丈夫だった。たまたま歩哨の任務に就いていたら仲間が残る宿舎が敵から攻撃を受けた。自分だけが生かされた。敵からの空襲で片腕を失…

腰ぬけ愛国談義

半藤一利と宮崎駿の腰ぬけ愛国談義を読了。 宮崎駿と半藤一利の対談本である。2人とも長年の知恵と経験がある。すごくいい本。宮崎駿の航空機への思い入れが深く、本書を読めば「風立ちぬ」が細部までより深く楽しめる。宮崎駿のアニメーションへのこだわり…

マイトレイ

ミルチャ・エリアーデのマイトレイを読了。珠玉の恋愛小説。また本棚にずっと残しておきたい本が増えた。フォースターのインドへの道が出版されたのが1924年でエリアーデのマイトレイは1933年に出版された。両方とも異文化の接触が物語のメインで異なる民族…

アフガニスタンの診療所から

2019年の12月4日にアフガニスタンで医師をしている中村哲氏が何者かに銃撃を受けて殺された。運転手と4人のボディーガードも含めて全員が亡くなった。アフガニスタンは今だにタリバンがいて武装組織がいてイスラム国がいて非常に危険な地域だ。日本で生温い…

ぼくらが漁師だったころ

チゴズィエ・オビオマのぼくらが漁師だったころを読了。今、アフリカから特にナイジェリアには沢山の良い作家がいる。オビオマもその1人である。作品のレベルがとても高いと思った。本作品は青春小説だ。オビオマは29歳の時にこの物語を書いた。若い世代にし…

不思議の国のアリス

ルイス・キャロルの不思議の国のアリスを読了。数ある翻訳の中でなぜ本作品を選んだのか。まず第一にハードカバーで字が大きくて目が疲れない事と2015年出版の新しい翻訳で、その上余計な注釈が無くて物語に集中できる事そしてなんと言っても挿絵が非常に綺…

砂の本

ホルヘ・ルイス・ボルヘスの砂の本を読了。ボルヘスの博学な知識に圧倒された。短編集であるが、どれも奥が深くて密度が高いので時間をかけてゆっくり読了。どうすればこんな古今東西の物語を創造できるのだろう。ボルヘスはブエノスアイレスの国立図書館の…

ファミリーライフ

アキール・シャルマのファミリーライフを読了。現実は厳しい。でも負けちゃいけない。生きるには粘り強さが必要だ。アメリカに移住したインド人一家の物語だ。兄のビルジュは優等生で将来を期待されたエリートだった。不幸は唐突に訪れる。プールにジャンプ…

モンテ・フェルモの丘の家

ナタリア・ギンズブルグのモンテ・フェルモの丘の上を読了。書簡形式の手紙だけのやり取りで物語は進む。非常に明快で読み易かった。登場人物が多過ぎて、正直に言って誰が何をやったか、人物の背景とかは一回読んだだけでは把握出来ないと思う。 イタリア人…

侍女の物語

今まで読んできたディストピア小説の中では抜群に面白かった。フェミニズム文学の騎手のマーガレッド・アトウッドの代表作だ。昨今のフェミニズム情勢からして非常に重要な一冊だ。この物語にはSF的な要素とディストピア的な世界がある。ディストピア小説の…

川端康成 古都

久し振りに読み返した。10年ぐらい前に読んだが、全く記憶にない。当時の自分の読解力の低さが原因だ。改めて思うのはすごく味わい深い小説だ。一語一句が丁寧に書かれていて本当に自分が京都に居るような気持ちになる。古都は何度も映画化されている。岩下…

金原ひとみ 持たざる者

金原ひとみの持たざる者を読了。4人からなる一人称のオムニバス式の小説である。それぞれ繋がっていて先の展開が気になる。金原ひとみの作品は内面の描写が多い。トルストイとかドストエフスキーのようだ。彼女の作品は粗削りだと言ってもいいが、それが金原…

綿矢りさ 手のひらの京

京都を舞台にした小説は川端康成の古都を読んで以来だが、面白かった。私自身は10年以上前に京都旅行に行ったが清水寺に行った事と鴨川に観光客が溢れかえっていた事以外は覚えていない。滞在したのも短かったのでまだまだ京都の奥深さは分かっていない。嵐…

日本を撃て

見沢知廉の日本を撃てを読了。絶版の本である。探すのにえらく苦労した。彼の数ある著書の中で本書が一番好きだ。見沢氏の小説は右翼や左翼の知識がないとよく理解出来ないと思う。その筋に詳しい人向けだと思うが彼のノンフィクションは誰にでも楽しく読め…

精霊たちの家

イザベル・アジェンデの精霊たちの家を読了。いや。すごい。ある一族の壮大な物語である。著者のアジェンデは故郷の軍事政権に掌握されたチリを去り亡命先のベネズエラで本書を執筆した。ラテンアメリカ文学のマジックリアリズムの要素は本書にもみられる。…

見沢知廉 囚人狂時代

久しぶりの再読。今改めて通読してみてやはりこの本は物凄い。12年間の刑務所暮らしの記録である。ノンフィクションなのが驚きだ。こんな世界が本当に存在するのだろうか。とても衝撃的な内容だった。見沢さんのいう通り刑務所の中はダンテの神曲の地獄の世…