偶然 帆船アザールの冒険

 海洋冒険小説だ。日本人にとってはあまり大西洋とかカリブ海の島々はあまり縁の無い世界だと思う。アンティル諸島はフランスの植民地だった。現在でもフランスの海外県として存在している。少女のナシマは褐色の肌を持ち、フランス人の母親のナディアとアンティル諸島出身の父親を持つハーフだ。航海に出たきり二度と戻らなくなった父親を探すために、アザールと言う名の立派な帆船に密航を企てる。アザールの美しさに魅了されたナシマ。育った南仏のメー街と言われる暗くじめじめした界隈から抜け出して船に密航するとても野心的な少女だ。ナシマは食欲旺盛で活発で好奇心があってとても度胸がある。アザールの持ち主は大金持ちの成功した映画監督のモゲルだ。もう58歳のおじさんで、アザールの為に大金を突き込んだ海と船をこよなく愛する男だ。今まで何回も大西洋を往復している。

そんな不思議な親子ほどの年齢が離れた二人の物語だ。モゲルには離婚した妻の間に一人娘のサリータがいる。モゲルのナシマへの感情は複雑でサリータの面影を感じ実の娘のように彼女に接する。一方で昔の一夜限りの付き合いだった、マテにもナシマは似ている気がする。ナシマとモゲルと、もう1人のマダガスカル島出身のアンドリアムナと言う名の助手も加わり大西洋を横断する。南仏から途中スペインのマヨルカ島に寄りパナマを目指す。

 本作品は正直言って話にまとまりが無く、ちくはぐな印象を否めない箇所もある。短編小説を無理に繋ぎ合わせて長編になったようだ。ロビンソンクルーソー海底二万マイルなどの古典の海洋小説を読み漁って出来上がったみたいだ。通俗的ではあるが、それでも私は楽しかった。カリブ海までの航路で途中、サルガッソー海の大海藻に進路を阻まれ、デッキの上でアフリカの音楽を流しながらダンスするナシマとモゲル。想像しただけで面白い。そして新しい発見もあった。ルクレジオは私に新境地を開いてくれた。カリブ海の暴風雨。ヨーロッパ人とカリブ海の人々の意思の疎通に使うクレオール語

 物語の終盤は紆余曲折あって故郷の南フランスに戻ってきたナシマ。モゲルはイタリアで難船になったアザールを修理する毎日だが破損が激しくもう二度元には戻らないと修理屋に言われ、失意のまま病気で倒れる。ネタバレになるが、最後はアザールを南仏の港で爆破する所で物語は終える。入院先でアザールの爆発音はモゲルに届いたのだろうか。親子のような友情のような恋人のようなモゲルとナシマの関係は読み手の解釈によって別れるところだろう。

 

偶然 帆船アザールの冒険

偶然 帆船アザールの冒険