バッタを倒しにアフリカへ

 前野ウルド浩太郎氏の「バッタを倒しにアフリカへ」を読了。ベストセラー本は基本的に読まないつもりでいたが、何回も店頭で見かけてとうとう購入。感無量。こんなワクワクした新書は初めてだ。力の入れようが違う。光文社も大分、気合が入っているようにみえる。まず、表紙のインパクトがすごい。

 筆者は幼い頃に読んだファーブル昆虫記に憧れて昆虫学者を目指す。ポスドクという立場の研究者で厳しい審査の上、見事アフリカ行きを勝ち取ったエリートである。そもそもアフリカと行っても50ヶ国以上あるので一体何処の国の事を指しているのか?派遣先のモーリタニアは西アフリカにある日本の国土の3倍もあるサハラ砂漠に面する国で宗教はイスラム教。地球の歩き方にも載っていない謎の国である。筆者は異文化に相当、悪戦苦闘するが彼の専門である野生のバッタを研究する日々に喜びを感じる。まずイスラム教の国ではお酒は飲めない。日中は断食するラマダンもある。豚肉も食べれない。アフリカタイムと呼ばれる1時間の遅刻は当たり前。一夫多妻制もある。筆者の妙なウルドという名前は勤め先の研究所のババ所長から授かったミドルネームだ。何々の子孫という意味でモーリタニアではとても名誉があるそう。

 モーリタニアでの3年間の研究生活を綴った記録が本書だが、アフリカのバッタの被害は深刻で農作物が食い漁られ食糧難にも陥る。本当に大問題だ。アフリカでイナゴの大量発生のニュースをつい最近みた。筆者は殺虫剤などを使用しないもっと根本的な解決策を生み出すため日夜研究に没頭する。またバッタへの尋常ではない愛情も見受けられ、これほどバッタに夢中になっている人は日本にはいないだろう。

 モーリタニアでのフィールドワークは実に興味深い。相棒で運転手係のティジャニと一緒にモーリタニア各地を走り回る。大量発生したバッタを探すため村人や遊牧民に目撃情報を尋ね行動する。筆者は理系であり研究の達人であると思った。到底私のようなバリバリの文系には思いつかない、アイディアと理系的なセンスがある。途中、干魃が原因でバッタが発見出来ずにゴミムシダマシの研究に方向転換する。流石京大の機関に採用されただけある。論文を書き上げ成果を挙げるため色んな試行錯誤をする。本書はものすごく規模の大きいサクセスストーリーだ。文章を補う豊富な写真があってモーリタニアに俄然興味が湧く。文章の校正もしっかりしていて筆者は文才の才能もあると思う。文系理系問わずに海外フィールドワークの面白さが伝わってきた。