旅に出る時はほほえみを

ナターリヤ・ソコローワの「旅に出る時はほほえみを」を読了。本書は1965年に出版されたソ連時代のSF小説である。正確にはサイエンスファンタジーであって現代おとぎ話。地球の地底を移動出来る怪獣を開発した主人公の(人間) 彼はエリートであり首相に表彰されるぐらいの優秀な研究者。怪獣の研究に日夜、没頭するが、政府による軍事的な目的が(人間)を支援する事だと知り、いつしか政府に楯突くようになる。最終的に(人間)は国家反逆罪で死刑が宣告されるが、友人の科学芸術院総裁の助けがあり流刑の罪に減刑された。
ロシア人の議論好きがよく分かる場面がある。(人間)と(作家)の酒場での哲学的な議論は罪と罰ラスコリニコフマルメラードフの会話を彷彿とさせる。ドストエフスキーとかトルストイの長談義を踏襲している。
本作品の特徴は当時の旧ソ連時代の共産主義社会主義の政府による民衆への抑圧を巧みに風刺している所にある。流刑の罪や、政府に逆らった罪で(人間)の経歴、存在、名前自体が抹消されてしまう。全てを失ってしまった(人間)は当てもなくヨーロッパへ彷徨い歩くところで物語は終わる。
SF面は少なく怪獣の登場回数も非常に少ない。寧ろ、文学的な作品である。面白い中編小説だ。