ルクレジオが書く冒険小説は面白い。今度の舞台はマダガスカルの横にある小さな島国のモーリシャスだ。首都はポートルイス。島の旧名はフランス島。フランスとイギリスに支配されてきた歴史を持つ。モーリシャスはサトウキビの栽培が主幹産業だ。奴隷貿易が行われた時代からサトウキビ畑があった。島の七割の住民はインド系。大昔にドードーがこの島に生息していた。ドードーとは羽が退化して飛べなくなった大型の鳩科の鳥。警戒心が薄くて島に漂流した者の餌食になり絶滅した。ドードーは島のシンボル的な存在だ。この本を読んだ印象から言えば、モーリシャスはハワイやグアムのようなリゾート地だと思う。
ジェレミーと言う名の青年とドードーと呼ばれる浮浪者の二人の視点を通して物語は進む。訳者の解説によるとジェレミーは作家の分身で父親の書斎で発見した砂嚢の石をきっかけにパリからモーリシャス島へと旅立つ。砂嚢の石とはドードーの体内から落とされた石だ。島でのドードーの調査の成果は今ひとつだ。目的が変わって自分の一族のルーツを辿る事になる。実際にルクレジオはブルターニュからモーリシャス島に移り住んだ祖先を持つ。
もう一人の語り手のドードーこそドミニク。彼の物語は島から始まる。若い時に娼婦から移された梅毒のせいでまぶたと鼻が溶けた異様な風貌を持つ。島での徘徊が彼の日常だ。ジェレミーとは反対にドードーは島の浮浪者を代表してパリ行きの飛行機に乗る。パリでのホームレス生活から南へと移動を続けてやがニースに辿り着く。そして精神病病院に収監された。ドードーとジェレミーは共にフェルセン家の血をひきドードーの存在は一族の悪しき枝として蔑まされている。
これまでルクレジオはモーリシャス物を複数書いてきたがアルマは最も現代的な物語だ。本が出版されたのは2017年。作家の年齢は77歳。円熟期と言っていいだろう。作家のこれまでに築いた知識や経験があるのでモーリシャス物ではアルマが一番良いと思う。
クリスタルと言う名のクレオールの少女がオランダ人の男を相手に売春する場面やショッピングモールの描写で現在のモーリシャスを浮き彫りにする。また一方で農場主と奴隷商人との間で交わされた取引で残酷な運命を辿る奴隷の悲しい歴史があり絶滅したドードーがイギリスに運ばれてやがて命を落とす過去が島にはあった。島には教会があり山があり湖があり森があり観光客や現地の住民の憩いの場所だ。モーリシャスには豊かな自然を保護する団体がいるのだ。






