インド残酷物語 世界一たくましい民

 

 以下読んで気づいた事を箇条書きにしてみる。

著書の池亀彩氏はインド南部のカルナータカ州を拠点にフィールドワークを行った。

カルナータカ州の人口は6000千万ほどで州だけでイギリスやフランスの人口と同じ。

カルナータカ州の州都はベンガルールでIT産業で盛んな都市だ。

現在のインドの首相のモディはヒンドゥー教主義の右派政権のインド人民党出身。

ヒンドゥー教主義の結果、イスラム教や少数派の宗教を信仰する人々への迫害が絶えない。

インドには保険や年金などの国から国民への社会保障は一切ない事だ。

ダリトと言われるカースト制度の最下層の不可触民の人たちへの差別は根強く残っている。しかし彼等の大学への進学を支援する留保制度が存在する。

カーストが異なる者との結婚はタブーで両親は相手の男を殺すケースがある。名誉殺人と呼ばれていて特に自分の娘がダリトの出自の男と結婚をしたら相手の男は殺され自分の娘とは絶縁するという。

インドでは女性の地位が男性よりも低く両親は男の子が産まれるのを望むという。

 

 現代のインドの問題は知らない事ばかりだったので読んでよかった。

 

 

星野道夫 魔法のことば

 

 魔法のことばを読了。この本を読んでとても幸せな気持になった。心の健康にとてもいい読書だと思った。星野は偉大な存在だと思う。何故なら彼は人が訪れた事がないような南東アラスカやアラスカ北極圏で自分だけの物語を創造したのだから。彼の名前通り星野は自分で自分の道を作った。アラスカは僻地で人口過疎地で一見した所、何もない土地にみえるが、そこにはインディアンやエスキモー、白人が住んでいて皆自然と共生する様に生活している。そこには狩猟生活が続いていて人々は自給自足の生活をしている。

 

 この本は星野道夫による10の講演集だが、聴衆が毎回変わるので重複するエピソードも多い。しかし彼のアラスカでのエピソードや、子供の頃から北の寒い地域に憧れていた話は何度聞いてもいい。星野はアラスカに暮して18年の歳月が流れた。本一冊ではとても収まりきれない沢山の面白い出来事があった。

 

 太古の昔から続いている北極圏のカリブーの季節移動に星野は魅了された。星野が住むフェアバンクスの壮大なオーロラは迫力があって生き物のように動いている。太陽が沈まない夏場の白夜の間中は皆が活発に動き回る。秋はブルーベリーやグランベリーを集めるために人々も熊も大忙しだ。集めたブルーベリーでジャムを作って長い冬に備える。アメリカ本土からやってきた暗い過去を背負ったある一家のお話。ベトナム戦争の帰還兵のインディアンの話。皆それぞれアラスカに住む人々の背景は違う。星野自身がそうだが、皆アラスカのダイナミックな自然に救いを求めてやってきたのだ。

 

 北極圏にあるポイントホープ村でのクジラ漁のお話がとても好きだ。エスキモーの人たちのクジラ漁に同行させてもらった星野は料理係だ。氷の上にテントを張り、クジラが現れるまで待機する。氷にできる小さな亀裂(リードと呼ばれる小さな海)を探してそこに沿ってテントを張る。クジラを銛で仕留めて捕獲できたら皆んなで集まって解体して残さず食べる。そばでは高齢の女性がクジラへの感謝の踊りを披露している。

最後にはクジラの顎骨を海に返す。長年のしきたりなのだ。解説の池澤夏樹氏の言う通り、この物語は効率が全てを損ねてしまう前の原始的な生き方なのだ。

 

 南東アラスカでのホエールウォッチングも面白い。ザトウクジラはアラスカの海の豊富なプランクトンを求めてハワイからやってくる。魚の群れを見つけると泡で囲み魚が海面に逃げていった時にザトウクジラが豪快に喰らう。

 



闇の奥

 

 新訳感謝。コンゴ・ジャーニーに続いてコンゴ川を舞台にした闇の奥を読了。コンゴ民主共和国の首都のキンシャサキンシャサコンゴ川沿いにある大都市だ。そして対岸にはもう一つの国のコンゴ共和国の首都のブラザヴィルがある。こちらの都市も大都会だという。コンゴ川を挟んで二つの国の首都が向かい合っているなんて面白い。いつか訪れてみたい。夢を諦めない。

 

 幾多の作家がコンゴ川の大密林に魅了されて現地に訪れた。作家のコンラッドアンドレ・ジッド、

コンゴジャーニーのオハンロンたちがコンゴ川を探検した。コンラッドの闇の奥はコンラッド自身の実体験が物語のベースになっている。彼は20年以上世界中を航海したベテランの船乗りだ。

 

 正直に言って闇の奥のストーリーは暗くてジメジメしていて陰鬱だ。コンラッド自身とても気難しい人だなと思った。ドストエフスキーに近い性格。

 

 人種差別的な描写が結構ある。1900年当初に描かれた小説なので今と比べると人種平等の世界では無かったのだ。文明化を目的と言ってアフリカで辛辣に振る舞う西洋人たち。実際の目的は象牙などの自然資源の収奪が目的だった。アフリカ人へのリスペクトが全くない。後年、ナイジェリアの作家のアチェべが闇の奥を読んでコンラッドを人種差別主義者と糾弾したが、そう思われても仕方がない部分がある。アフリカ人の事を蛮人や人喰い人種と呼び蔑むコンラッドの文章は行き過ぎている気がした。語り手のマーロウ自体がコンラッドの分身なのだから。鉄道工事で酷使される黒人労働者や家の周囲に黒人の頭蓋骨を並べていた白人大尉。

 

 タイトルの闇の奥は二つの意味があった。鬱蒼と生い茂る密林の中を流れるコンゴ川の奥深く上流を目指す船旅と西洋人たちの現地での残酷な振る舞い。19世紀末のアフリカの植民地支配の現実の姿をコンラッドは描いたのだ。

 

 

森と氷河と鯨 ワタリガラスの伝説を求めて

 

 今の現代人の生活はとても豊かである。24時間、営業しているコンビニが家の近くにあって自動販売機が何処でも見つかる。豊かになったのは事実だが、人との繋がりがとても希薄になった。自然と動物と一緒に生きる生活に憧れる。物々交換が当たり前で自給自足の狩猟民族になったみたい。

 

 星野道夫さんの写真と文章はとても癒された。彼は旅行家であり写真家であり作家であった。写真を撮るのがとても上手い。ずっと記憶に残る絵になる写真を撮る。

 

 星野はワタリガラスの伝説を求めてカナダ、アラスカを隈無く取材する。現地のインディアンにとってはワタリガラスはこの世界の創造主でとても神聖な存在だった。北海道のアイヌ人が熊を神聖視するように。まだユーラシア大陸アメリカ大陸が陸続きで繋がっていた時代にエスキモー(アジア系のインディアン)がアジアからアメリカ大陸に移動した歴史がある。星野はその歴史を遡る。カナダ、南東アラスカからシベリア、カムチャッカ半島まで星野の旅は続く。

 

 

 

 

幼年期の終わり

 

 クラークの代表作の幼年期の終わりを読了。不朽の名作のSF小説といえば、ジョージ・オーウェル1984オルダス・ハクスリー素晴らしい新世界だが、僕は断然、クラークの幼年期の終わりが好きだ。まず、彼の生き方が好きだ。祖国の国のイギリスを離れてスキューバダイビングを愉しむのを理由にスリランカに移住した。スリランカで生涯を終えた。

 

 クラークの小説には童心に返ったような純粋さがある。SF小説と言ってもハードなSFではないので文学だと思って読める。幼年期の終わりは1953年に完成されたが、クラークが予測した21世紀初頭の未来には何があったのか。僕たちは今まさに2022年、クラークが予測した未来に生きている。クラークの先見性はすごい。人工衛星を使ってテレビを放送するアイディアは正に現代では実用化されているし、自動食洗機は一般の家庭にはお馴染みだ。ただ、自家用ジェット機はまだまだ一般には普及されていない。作品の中でパーティーに参加する為に自家用ジェット機で参加者は招待主の邸宅に向かうが2022年では日常ではあり得ない。いつかこの先、そんな未来が待っているのかもしれないが。一般の家庭に専用の駐機場があるなんてすごい設定だ。

 

 南アフリカにある大学に進学予定の青年ジャンが宇宙船に密航する話が面白い。突如、世界中の大都市の頭上に現れた宇宙船。オーヴァーロードと呼ばれる地球外知的生命体が人類を支配しようとする。彼らの故郷の母星に一時帰国する宇宙船にジャンは密航した。船の密航ならよくある設定だが、宇宙船というのが面白い。オーヴァーロード達の住む星は地球とは全く異なっていた。彼らは殺風景なビルに住み出入口は陸か離れた高さにあった。オーヴァーロード達には羽が生えていて空を飛べるのだ。人類よりも一回り大きく、先が三角形の尻尾を持った悪魔のような風貌の彼ら。

 

 この宇宙のどこかに別の惑星があって異星人が住んでいると思うとワクワクする。空想するのが面白い。夢があっていい。ジャンは宇宙では半年しか経過していなかったが、宇宙船で地球に帰ると地球の時間では80年が経っていた。光速の問題だ。荒廃した地球。もう人類は絶滅危機に瀕していた。十歳以下の子どもたちが残っていたが、もう人格は無く得体の知れない物体になっていた。人類の最期の一人になったジャンはオーヴァーロード達に地球の消滅を伝えた。クラークの動物への愛情も感じられた。スペインの闘牛の文化を動物の無駄な殺生だと認識して廃止に追い込もうとする話がいい。

 

 

 

 

ウィトゲンシュタイン家の人びと

 

 こんなに面白い伝記には滅多に出会えない。これは真実なのだろうかと疑うぐらい波瀾万丈でノンフィクションとは思えない。ウィトゲンシュタインと言えば、論理哲学論考を著した哲学者で有名だ。ルートウィヒは七人姉妹兄弟の末っ子だった。そして二歳歳上の兄のパウルは片腕のピアニストで世界的に有名な音楽家だった。実は生前はルートウィヒよりもパウルの方が有名だった。兄妹の内の三人が自殺した。一家全員が、人付き合いが苦手で気難しく激しやすかった。ルートウィヒ自身も自殺の念慮に苛まれていた。ポーランドクラクフトルストイ福音書に出会い彼の人生を大きく変えた。

 

 家族全員が個性が強すぎて一人に絞れなかったので著者は一家の伝記を書く事にしたのだと思う。この物語の主役は四男のパウルだ。彼の不屈の精神がすごい。第一次世界大戦で、祖国オーストリア=ハンガリー帝国の為に戦った。そしてロシア軍を偵察中に敵からの砲弾で右腕を失った。以来、片腕のピアニストとして名声を博すようになる。従軍中にロシア軍の捕虜となりシベリア流刑となった。生きるか死ぬかの世界だ。パウルは希望を失わず、木箱を鍵盤に見立てて片手でピアノを弾く練習をした。最終的に重傷捕虜となり解放されるが、第二次世界大戦ではユダヤ人の疑いをかけられたアメリカに亡命した。最終的にアメリカの市民権を取得して暮らすことになる。

 

 僕はこの家族と共感しながら読んだ。まず、何故パウルやルートウィヒが学問や芸術の世界に没頭する機会があったのか説明がいる。父親のカール・ウィトゲンシュタインが莫大な金持ちだったのだ。彼は鉄鋼業で成功して富を築き上げ二億ドルもの資産があった。長女のヘルミーネや妹のグレートルが寄付や慈善活動が出来たのも親の遺産のおかげだった。

 

 

 

アイヌの昔話

 萱野茂による20話のアイヌの物語。

祖母から聞かせて貰った物語。どれも人生の教訓になる話だ。物を大切に扱う、欲張らない、親を大事にする、自慢しない。北海道の大地で石狩川で鮭を取り自給自足の生活を送っていたアイヌの人々。カムイ(神様)を敬い、特に熊はとても神聖視されていた。肉が食べれる上に毛皮まで取れる。アイヌは取った毛皮を交易所で物物交換をしていた。アイヌ人の夢に表れる殺された熊のカムイ。そして熊のカムイは言う。私にイナウを作って神の国に送ってくれれば必ずあなたをいつまでも守ってあげようと。

 日本は単一民族と言われるが、アイヌ人の人々がいた事は決して忘れてはならない。