マイトレイ

 ミルチャ・エリアーデのマイトレイを読了。珠玉の恋愛小説。また本棚にずっと残しておきたい本が増えた。フォースターのインドへの道が出版されたのが1924年エリアーデのマイトレイは1933年に出版された。両方とも異文化の接触が物語のメインで異なる民族の衝突や理解は本当に面白い。

 ヨーロッパからカルカッタに仕事で赴任されたアランとベンガル人マイトレイとの悲劇的な結末を迎える恋愛物語である。エリアーデの実体験が反映されていてほぼノンフィクションの小説だ。マイトレイは実名で最後の結末と若干の登場人物の名前と職業を除けば全てが事実であるという。創作ではないのだ。なぜこんなに美しい物語を描けたのだろうか。エリアーデはこの後、著名な宗教学者になるが物書きとしても超一流である。

 まずインドは多数の言語が存在していて一応公用語は多数派のヒンドゥー語になっているが聞いた話しによると200を超える言語が存在する。カルカッタバングラディシュのお隣の地域でベンガル人が住んでいて話す言語はベンガル語である。私もカルカッタには旅行で行ったことがあるがバングラディシュの空港で私の乗る飛行機がキャンセルになった時、非常に親切なベンガル人が航空券の手配と何と無料でホテルも泊めてくれた。ただただ感謝しかない。だから私も個人的にベンガル人には思い入れがあるので親しみを感じながら読んだ。

 アランは会社の上司で技師のナレンドラ・セン氏の自宅に下宿する。そこでセン氏の娘のマイトレイに恋をする。家庭教師の役目を担ってマイトレイにはフランス語を教え彼女はアランにベンガル語を教える。僅か16歳の少女に恋に落ちた青年のアラン。マイトレイから貰った花を押し花にして返すアラン。親しい者とのふくらはぎの交錯はインドでは愛情を表す仕草である。テーブルの下で足を触れ合う2人。書庫でのキス。初夜を迎える2人。相手がまだ16歳の少女だが、純粋に誠実にマイトレイを愛するアランの姿勢は美しい。結局両親にアランとマイトレイの関係がばれてアランは追い出されてしまう。傷心が癒えぬままヒマヤヤの山中に籠るアラン。

 マイトレイは発売当初から絶賛され人気を博したようだが、当然、マイトレイの耳に入る事になり彼女は怒る。そしてマイトレイも自分のエリアーデへの気持にけじめをつけるため小説を書く。「愛は死なず」はベンガル語で書かれルーマニア語にも訳された。面白いエピソードだ。それぞれの立場から見た視点で語られる物語は珍しい。

マイトレイ

マイトレイ