戦場から生きのびて

 

 僅か12歳で内戦に巻き込まれて少年兵になったイシメール・ベアの物語。僕は彼より八歳年下だが、彼と同じようにEricb &Rakimのヒップホップを聴き育ったので他人事のようには思えなかった。アフリカの内戦と聞くと部族同士の衝突を思い浮かべるが、シエラレオネは政府軍と反乱軍との争いだった。

 

 まずシエラレオネとは何処にあるのだろうか、それすら知らない人は多いと思う。首都はフリータウン。西アフリカの沿岸沿いにある国で元々はイギリスの植民地だった。長らく内戦が起こり多数の少年が兵士として徴用された。

 

 ちなまぐさい戦闘描写はかなり読んでいて辛かった。ある日唐突に訪れる戦争の魔の手。イシメール少年は内陸部に住んでいて首都のフリータウンに住んでいる人たちよりは貧しかった。彼は隣村に友人と兄と一緒に演奏会に行く途中で自分たちが住んでいた村が反乱軍に襲われた事を知る。兄と友人たちとは仲間はぐれになり1人で森を彷徨い歩き自分と同年代の少年たちと出会い一緒に行動する。

 

 訪れた旅先の村で両親と兄弟を反乱軍に殺された事を知る。その後食糧が必要だったので生き延びる為に政府軍に雇われた。自分の家族を殺した反乱軍への復讐心に燃えていたイシメール。そして少年兵たちはコカインやマリファナを吸い薬漬けにされた。敵を殺して徐々に人間性を失っていった。生き抜く為には殺される前に相手を殺した。敵の反乱軍にも大勢の少年兵士がいた。戦争は人を狂わす。

 

 三年に及ぶ軍隊生活で身も心もボロボロだったイシメールに唐突に救いの手が現れた。ユニセフの人たちが基地に訪れてイシメールは首都のフリータウンに運ばれて心の傷を負った少年兵の更生を目指すある施設に送られた。リハビリセンターでの看護師のエスターとの出会いにより徐々に人間らしさを取り戻していくイシメール。

 

 彼は戦争後遺症を患いながらニューヨークの国連でシエラレオネの代表として戦争の悲惨さをスピーチをする機会に恵まれてアメリカに旅立つ。帰国後のシエラレオネは相変わらず政情不安定だ。武装した兵士が街を出歩き民間人を射殺する。意を決して隣国、ギニアに脱出する所で物語は終わる。

 

 戦争の物語だが、でもアフリカの美しい文化や自然の描写はとても良かった。キャッサバを食べてベランダで寛ぐ人たち。アフリカから見た壮大な大西洋の海。木にハンモックを吊るして昼寝する人々。ラッパーと呼ばれる衣服を着る女性たち。