ファミリーライフ

 アキール・シャルマのファミリーライフを読了。現実は厳しい。でも負けちゃいけない。生きるには粘り強さが必要だ。アメリカに移住したインド人一家の物語だ。兄のビルジュは優等生で将来を期待されたエリートだった。不幸は唐突に訪れる。プールにジャンプしてプールの底に脳天を打ち、脳挫傷で寝たきりになってしまった。弟のアジェの視点からストーリーが語られる。ビルジュは入院生活を送り、介護施設に送られ、そして自宅で介護する事になる。両親は多大な心労を抱えている。尿道カテーテルを差し込み、胃袋に直接、流動食を送り、自宅介護になってからは家族や雇った介護職員がビルジュの世話をする。父親は自暴自棄になってアル中になり母親は介護のストレスでいつも怒っている。

 そんな中1人、奮起するのが次男のアジェだった。猛勉強に励み、学校で優秀な成績を採り時には悲観主義に陥りながらも、現実を淡々と受入れていく様は清々しい。特に兄の介護と、父親がアル中でニュージャージー州の自宅からニューヨークの病院に入院した時期が一番苦しかったのではないか。それと並行して学校での女子との恋愛だったりクラスメイトから仲間外れにされたりアジェのティーンエイジャーの成長記録でもある。冒頭はインドのデリーからの描写から始まり、渡米後も祭壇で祈りを捧げたり、アジア的な慣習は続いていく。インド系のコミュニティの物語でもある。僕も同じアジア人として共感出来る箇所は多数あった。西洋への憧れや劣等感、両親から子供の学業への期待と重圧、アジア的な集団主義アメリカに移住しても決して変わる事は無いのだ。

 一昔前までは文学は西洋人中心で西洋人からみたアジアが主流だったが、今はグローバルな時代。こうやってインド人のアメリカでの生活の描写は非常に新鮮で好奇心に満ちていた。この物語の主題は寝たきりの兄の介護とアジェの学校生活だが、その舞台がアメリカなのが愉快だ。例えば父親のアル中の治療の一環として近所の教会で同じ様な依存症に苦しんでいる人たちと話し合う場面がある。一緒に行ったアジェは皆好き勝手に自分の依存症について話す様子に困惑する。文化の違いである。アジェはまた、ヘミングウェイに出会い読書の楽しみにも触れる。

 この物語は一見、救いようの無い悲しい話だとは思う。確かにそういう見方もあるが、僕は綺麗事を抜きにして人間の本質的な部分を再現した筆者の勇気を讃えたと思う。

 

ファミリー・ライフ (新潮クレスト・ブックス)