侍女の物語

 今まで読んできたディストピア小説の中では抜群に面白かった。フェミニズム文学の騎手のマーガレッド・アトウッドの代表作だ。昨今のフェミニズム情勢からして非常に重要な一冊だ。この物語にはSF的な要素とディストピア的な世界がある。ディストピア小説の系譜を辿ると「素晴らしい新世界」から始まり「1984」から「華氏451」まで続いてきた。これまで多くの作家がディストピア小説に挑戦したが、数少ない成功者の例は「侍女の物語」だ。「1984」では近未来の超監視社会を書いた。「華氏451」では焚書された世界を書いた。そして「侍女の物語」では女性が虐げれる世界を書いた。

 舞台はキリスト教原理主義が世界を支配していて女性は自分に配属された司令官の子を妊娠するために肉体を提供するだけだ。そこには愛もない。定められた儀式の日に司令官とセックスを行うだけ。厳しい階級社会で、主人公のオブフレッドを監視、命令する「小母」オブフレッド達をライフルを肩に掛け警戒する「保護者」と「天使」そしてオブフレッド達は「侍女」で彼女達よりも地位の低い「女中」。黒人は追い出されユダヤ人も処刑される。政府に逆らった者や反乱者は処刑される死体を壁に掛けられた鉤に吊るされる。恐ろしい世界だ。オブフレッドに自由は無い。顔も白のヴェールで隠し全身を赤い衣装で隠さなければいけない。

 儀式の日の描写は凄まじい。司令官の妻もオブフレッドに寄りかかってセックスに参加する。司令官に一切の恋愛感情はないので全くの無表情で行為が行われる。性的な気持もない。唯一の目的は子供を作る事だ。妊娠機能を失った女性は劣悪なコロニーに送られる。

 この小説が何故これほどまでに評価が高いのか。スリリングな展開は勿論の事、現代の問題を取り扱っているからだと思う。物語の中で女性の資産が凍結されてオブフレッドの夫のルークに慰められる場面がある。その時に夫の銀行口座を凍結されていないのに気づきオブフレッドは女性は男性の所有物になってしまったと言う。ここが物語の核心を突く。フェミニズムとは要するに男女平等主義だ。女性は男性との同等の権利を求めている。侍女の物語はアトウッドの思想書でもある。「1984」に出て来る長たらしい論文も無くワクワクしながら読んだ。最後に注釈があるので読みたい人がいれば読めばいい。本書は一度読め始めたらもう最後までページをめくる手が止まらない、予測不可能でクレイジーですごい物語だ。

 

侍女の物語

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