島とクジラと女をめぐる断片

大西洋の島に関しては疎い。日本から遠く離れたヨーロッパとアメリカ大陸の間にある海は日本人からすれば知らなくて当然だと思う。タブッキなりの紀行文。というか真実の物語と空想の物語が混ざったような不思議な読書。 タブッキはポルトガルをこよなく愛し…

ハツカネズミと人間

新訳感謝。新訳をきっかけに読んだ。年譜あり解説あり、とても読みやすい翻訳で文句なし。 スタインベックの作品は「怒りの葡萄」と「エデンの東」と「ハツカネズミと人間」が有名だ。 小柄で知的で頼りになるジョージと大柄で不器用で少しおつむが弱いレニ…

イジェアウェレへ フェミニスト宣言、15の提案 

アディーチェの書く本は興味深い。僕は彼女のフェミニストを支持する。日本のある批評家のフェミニストは男性嫌悪を煽ったり、母性を否定して子供を持ちたくないと言ってクレイジーだなと思う。 今まで女性の痛みはずっと見過ごされてきた。家父長制やミソジ…

戦場から生きのびて

僅か12歳で内戦に巻き込まれて少年兵になったイシメール・ベアの物語。僕は彼より八歳年下だが、彼と同じようにEricb &Rakimのヒップホップを聴き育ったので他人事のようには思えなかった。アフリカの内戦と聞くと部族同士の衝突を思い浮かべるが、シエラレ…

アイヌと神々の物語

38つの昔話。ここ一ヶ月アイヌの世界にどっぷりと浸っていた。アイヌの人々の生活に憧れている。俗世から離れて自然と調和して生きたい。自給自足の生活がしたい。アイヌの人々にとって熊は特別な存在だ。彼らは寒い冬を乗り越える為の毛皮を運んでくる。そ…

にごりえ 樋口一葉

樋口一葉は日本のジョージ・エリオットか、ジェーン・オースティンか。とても思慮深い作風。百年以上前の小説だが全く衰えない新鮮さがある。現代でも通用する面白さがある。流石、五千円札の肖像に選ばれた人だ。 わずか二四歳で夭逝した一葉だが、彼女の視…

82年生まれ キム・ジヨン

恐らくフェミニスト小説で最も重要な本だと思う。韓国は女性が強い。国の男女平等ランキングでは韓国は日本を上回っている。これからもさらに上位に進むだろう。何故なら韓国では男女平等に真剣に取り組んでいるからだ。 主人公はキム・ジヨン。キムは韓国で…

男も女もみんなフェミニストでなきゃ

日本の男女平等ランキングは限りなく最下位に近い。ナイジェリアも一緒だ。ならばこれから良い方向に変えていかなければならない。フェミニズムは私の苦手な分野だったがアディーチェの本が好きだったので読めた。この本は2012年に行われたTedトークを本にし…

ラガ 見えない大陸への接近

今年の6月にフィジーに行ってきた。南太平洋の島である。常夏でフィジーの人々はインドからの移民の人やフィジー人の人が居てとても陽気で優しかった。 一見、南国の島なので人々は賑やかでとても明るい印象を受ける。しかし歴史を辿ればアフリカやカリブ海…

アフリカのひと 父の肖像

ルクレジオは世界各地を旅して特にメキシコ文化に惹かれてそこで暮らした。中南米の原住民と共同生活をして失われていく文化と風習を観察して本いう形で残した。また自身の祖先が住んでいたモーリシャスを舞台にした小説を書いたとてもグローバルな作家だ。 …

遊戯の終わり

初めてコルタサルの小説を読んだ。 彼の長編の「石蹴り遊び」はとても難解らしい。でも彼の短編小説はとても読み易い。現実か夢か分からない曖昧な世界を彷徨っている、そんな作風だ。これはコルタサルが少年の頃に読んだエドガーアランポーの影響だ。 日常…

ノアノア

今年の3月に岡山の倉敷にある大原美術館に行ってきた。目的はゴーギャンのタヒチ時代の絵が置いてあるからだ。日本国内でゴーギャンの絵が観れるなんて行かないと損だ。「甘美な大地」を鑑賞して満足して帰って来たのだが、まさかゴーギャンがこのマオリ族の…

八十日間世界一周

1873年当時まだ民間の旅行飛行機が無かった時代にヴェルヌは世界一周を夢見ていた。こんな破天荒な冒険小説があるだろうか。莫大なお金を鞄に入れて八十日間で世界一周が出来るか挑戦したフォッグ氏。彼はとても合理的で冷静な性格で何時も落ち着いている。…

わたしは「セロ弾きのゴーシュ」中村哲が本当に伝えたかったこと

中村哲氏のNHKのインタビュー集。年代順に体系的に書かれているので大分読みやすい。中村氏の生涯を追うには十分な一冊。この本から色んな印象を受けたがまず一番に思ったのは地球温暖化だ。2019年12月4日の中村氏の絶筆にはこう書かれている。「凄まじい地…

事件

ルーアンのある女子大学生の望まぬ妊娠による中絶の話。この話はエルノーの実体験だろうか。登場人物の名前がイニシャルで伏せられていた。恐らく限りなく実話に近いフィクションだろう。 1960年代のフランスは中絶は法律で禁止されていた。今ほど自由ではな…

すべての内なるものは

初めてエドウィージ・ダンティカの本を読む。彼女は12歳にアメリカに移住したハイチ人だが、ハイチへの想いはずっと残っている。何故ならこの八つの短編は全部ハイチが関係しているのだから。私は今までハイチの事は殆ど知らなかった。勝手にカリブ海の平和…

ルクレジオはすごい。彼は世界中を舞台に小説を書いている。 表題作の「嵐」と「わたしは誰?」の二篇を収録。両方とも少女を主人公にした物語だ。 「嵐」は韓国の離島と思われる浜辺の埠頭で秘めた過去を持つ初老の男性と筋骨逞しい少女の物語。ルクレジオ…

八十日間世界一周 上

八十日間世界一周の上巻だけを読了。ヴェルヌはやはり面白いな。もし誰かの全集を読めと言われたら私はヴェルヌかな。現代の作家ではルクレジオかチャトウィンか。兎に角、旅行作家、冒険小説が大好きだ。でも、巷で溢れているノンフィクションの旅行記は所…

十五少年漂流記

椎名誠氏が敬愛している作家のジュール・ヴェルヌ。最近私も沢山の本を読む中で自分の読書傾向が分かってきた。私も椎名と同様に冒険小説の代表者のヴェルヌの作品が大好きなのだ。世界では彼の人気がある作品といえば、「海底二万マイル」「地底旅行」「八…

事件 嫉妬

去年、ノーベル賞を受賞したアニーエルノーの作品が文庫化。事件と嫉妬の二篇を収録。 以下嫉妬の書評。 恋愛のもつれ。フランス文学だなと思った。この物語はエルノー自身の実体験かフィクションか分からないが(恐らく両方だろう) 誰もが陥るような嫉妬の苦…

失われた地平線

シャングリラと呼ばれる理想郷がチベットの人を寄せつけぬ山奥にある。ペシャワール行きの乗っ取られた小型輸送機はチベットの山岳地帯に不時着した。乗り合わせたコンウェイはたまたま道中を通りかかった中国人の張に助けてもらう。(実際は全ては仕組まれた…

アフリカ人学長、京都修行中 ウスビ・サコ

この本を読んで京都に旅行に行きたくなった。30年京都に住むサコさんが京都を論じる。世界はグローバル化の真っ只中、多様性が謳われる中、京都の伝統は生き残っていけるのか。生き残るには時代に順応して変化していくのが大切。伝統とイノベーションの融合…

無人島に生きる十六人

日本のロビンソン・クルーソーだ。本書には無人島で遭難した時、生き残るための知恵がつまっている。でも現実の世界では無人島で暮らす事なんてほぼないが。今の豊かな文明社会からかけ離れた世界なので楽しみながら読んだ。 これだけ長く読み継がれている本…

アフリカ 人類の未来を握る大陸

著者はヨハネスブルグ在住の記者でジャーナリスト。著者はアフリカ全土を取材している。気候変動の影響を特に受けている砂漠地帯のブルキナファソ、美しい島国モーリシャス、そしてアパルトヘイトの歴史がある南アフリカ。その全てがアフリカなのだ。 今やア…

失われた世界

映画のジェラシックパークやロストワールドの題材になった物語。 シャーロックホームズで有名なコナン・ドイルが冒険小説を書いていたのは知らなかった。失われた世界の翻訳は沢山あるが、光文社がいい。挿絵もあって脚注がある。文章も読み易い。 南アメリ…

なにかが首のまわりに

チママンダ・ンゴズィ・アディーチェによる12の短編小説集。文句なしに全部面白かった。ナイジェリアの人々にとって決して忘れてはいけない歴史のビアフラ戦争。ナイジェリアからアメリカに移住する人々。著者の自己体験を投影したと思われるナイジェリアで…

9つの人生 現代インドの聖なるものを求めて

ものすごい濃い一冊。知らないことが沢山あった。どこから書けばいいのか分からなくなるぐらい濃い一冊。ブルース・チャトウィンの系譜を継ぐ紀行文学の傑作。 著者のダルリンプルはインド中を隈なく旅をした。砂漠地帯の乾燥した土地の北インドのラジャスタ…

アーヤと魔女

帯には宮崎駿の推薦文。 映画を観てから読んだが、ハウルの動く城の著者のダイアナさんのファンタジーは確かに面白い。 アーヤと魔女 作者:ダイアナ・ウィン・ジョーンズ 徳間書店 Amazon

インド残酷物語 世界一たくましい民

以下読んで気づいた事を箇条書きにしてみる。 著書の池亀彩氏はインド南部のカルナータカ州を拠点にフィールドワークを行った。 カルナータカ州の人口は6000千万ほどで州だけでイギリスやフランスの人口と同じ。 カルナータカ州の州都はベンガルールでIT産業…

星野道夫 魔法のことば

魔法のことばを読了。この本を読んでとても幸せな気持になった。心の健康にとてもいい読書だと思った。星野は偉大な存在だと思う。何故なら彼は人が訪れた事がないような南東アラスカやアラスカ北極圏で自分だけの物語を創造したのだから。彼の名前通り星野…