金原ひとみ 持たざる者

 金原ひとみの持たざる者を読了。4人からなる一人称のオムニバス式の小説である。それぞれ繋がっていて先の展開が気になる。金原ひとみの作品は内面の描写が多い。トルストイとかドストエフスキーのようだ。彼女の作品は粗削りだと言ってもいいが、それが金原ひとみの魅力の一つではないだろうか。考え過ぎてやがて不安が頂点に達した時に逆に開き直って前向きになる姿勢は読んでいて痛快だ。金原ひとみにとって311の震災は衝撃的だった。彼女は震災を機にパリに移住したのだから。本作の舞台はあの東日本大地震が起きた直後の東京から始まる。彼女の実体験が多く物語に反映されている。このような震災文学はあの大地震津波原発事故を風化させないためにこれからも読み継がれていくと思う。放射能に汚染された東京から逃れるためイギリスに渡ったエレナと駐在員の妻としてフランスに住み現在はシンガポールから一時帰国した千鶴、妻子を京都に避難させた修人、数年の海外生活から日本に帰国して日本の同調圧力に翻弄される朱里、全て金原ひとみの分身のような気がする。彼女が得意とする一人称での視点と神経を病んでいる心理描写。やはり金原ひとみだと読んでいて気づかされる。彼女自身のフランスでの生活が彼女の創作にとても役立っていると思う。千鶴のパリ生活とエレナのロンドンでの生活は異文化の衝突でもある。言葉が分からない。意思疎通が難しい。通訳を呼ぶ。理解するまで手間がかかる。グローバルな世界に身に置く事で金原ひとみは新しい発見があった。それがこの小説に上手く活かされいる。

 

持たざる者 (集英社文庫)

持たざる者 (集英社文庫)