十五少年漂流記

 

 椎名誠氏が敬愛している作家のジュール・ヴェルヌ。最近私も沢山の本を読む中で自分の読書傾向が分かってきた。私も椎名と同様に冒険小説の代表者のヴェルヌの作品が大好きなのだ。世界では彼の人気がある作品といえば、「海底二万マイル」「地底旅行」「八十日間世界一周」だ。でも日本ではこの「十五少年漂流記」の方が人気が高い風に思える。「十五少年漂流記」の原題は「二年間の休暇」。随分、味気ないタイトルだ。邦題の方がいい。

 

 休暇と言うけれど命懸けのサバイバル生活だ。まず本書の冒頭の著書からの説明書きから分かるようにこの物語はダニエル・デフォーロビンソン・クルーソーから影響を受けて誕生した。ヴェルヌ流のロビンソン・クルーソーだ。あの作品は漂流物の先駆けとして今まで多くの作家たちが自分流のロビンソン・クルーソーを書いてきた。有名なところでは「フライデー、或いは太平洋の冥界」「蝿の王」。あの作品は合理主義と信仰の元で猛烈に働く大人の男の物語だが、「十五少年漂流記」も子供たちが知恵を出し合ってお互いに協力して困難を乗り越えていく素晴らしい物語だ。

 

 まず子どもたちがとても利口で驚く。年少組と年少組に分かれてそれぞれが自分の役割を果たしていく。リーダー格のゴードンは倹約家で冷静で頼りになる存在だ。もう一人の指導者的役割を担うブリアンは誠実で年少組の子どもたちからとても慕われている。そして野心家のドニファン。この3人を中心に島での生活は進んでいく。以前、この無人島で命を落としたフランス人の男の住処の洞穴に住みながら罠を仕掛け獲物を獲って料理役のモコが美味しい料理をつくる。島の全貌を探る為にちょっとした数日間の探検旅行を繰り返す。そしておおよその島の地図が完成した。時には脂を目的にアザラシを狩る。やがて島に訪れた悪党たちがきっかけで島からの脱出が現実味を帯びてくる。

 

 椎名はこの本に絶大な影響を受けた作家だ。実際に本書の舞台となったマゼラン海峡ハノーバー島にも訪れている。研究者の間では長年子どもたちがたどり着いた島がどこなのか論争の的になっている。ニュージーランドオークランドから南米大陸まで大嵐に流されて行くことが可能なのか?確かに無理がある気がする。椎名誠ハノーバー島は荒涼とした土地で物語に登場する内陸部の湖も存在しなかった。実際はニュージーランドにあるチャタム島が本書の舞台だったのだ。椎名はチャタム島にも訪れた。ここには湖があって淡水で犬たちは水を飲んでいた。正しくチャタム島が本当のモデルだったのだ。とはいえ南米大陸に存在する子どもたちが飼育して世話をするグアナコはいなかった。つまりこの物語は色々な実在する要素を取り入れてその上ヴェルヌの想像力も駆使して書かれた小説なので多少矛盾があっても気にしないで読むのが重要だ。