八十日間世界一周

 

 1873年当時まだ民間の旅行飛行機が無かった時代にヴェルヌは世界一周を夢見ていた。こんな破天荒な冒険小説があるだろうか。莫大なお金を鞄に入れて八十日間で世界一周が出来るか挑戦したフォッグ氏。彼はとても合理的で冷静な性格で何時も落ち着いている。彼から見習うところは沢山ある。基本的に旅は何が起こるか分からない。鉄道の遅延は当たり前、天候不良による船の日程の変更もよくある。旅はトラブル続きなのだ。でもフォッグ氏は決してパニックにはならないで、冷静に対処する。そんな性格だからこそ、八十日間で世界一周に成功したのだろう。

 

 まずフォッグ氏はケチらない。金に糸目を付けない。船や象を勝ったり、船員を買収したり、やがて夫人になるアウダ夫人の為に高価な服を買ったり、膨大なお金を使う。物語の後半は香港から横浜、サンフランシスコ、ソルトレイクシティ、オハマ、ニューヨーク、リヴァプール、ロンドンと駆け巡る。横浜では日本の女性がお歯黒を塗っているのを見て奇妙に感じた西洋人たち。確かに明治時代には日本ではお歯黒の習慣があったがあまり知られてはいない。

 

 1873年の世界の光景を読むのはとても興味深い。サンフランシスコではアメリカ人の過激な選挙の対立に巻き込まれる。フォッグ氏たちは、サンフランシスコが大都会なので驚いているようだ。確かに当時は西部開拓の時代で東海岸のニューヨークみたいな景色をサンフランシスコで見るとは予想していなかったのだ。アメリカ中部では鉄道がインディアンの襲撃に遭い命辛々、助かるが厳しい冬の寒さの中、橇でニューヨークに向かう事になる。

 

 ヴェルヌの冒険への憧れが遺憾無く発揮されている。