すべての内なるものは

 

 初めてエドウィージ・ダンティカの本を読む。彼女は12歳にアメリカに移住したハイチ人だが、ハイチへの想いはずっと残っている。何故ならこの八つの短編は全部ハイチが関係しているのだから。私は今までハイチの事は殆ど知らなかった。勝手にカリブ海の平和な国だと思い込んでいた。島国で島の半分はドミニカ共和国でもう半分はハイチ。そのぐらいの事は知っていたが。

 最近見た海外のニュースでハイチの悲惨な状況を知って驚いた。ハイチの貧しい人たちが大勢映っていた。政治の腐敗がひどく政治が安定していない。2010年に起きた30万人を超える死者を出した大地震はハイチの人々の生活に大きな傷跡を残した。南北アメリカで唯一の最貧国に指定されているのがハイチなのだ。とても笑っていられる状況ではないなと思った。大地震の被災者はいまだに電気のない生活をしいられている。

しかしこの短編集からはダンティカのハイチやハイチ人への愛情をひしひしと感じた。

貧しいハイチからアメリカの豊かさを求めて危険極まりない船で密航する人々の話。当然、海岸沿いには湾岸警備隊が密入国者を取り締まる為に見張っている。

地震で片脚を失い妻子を失った男の物語。彼の心は決して癒される事がない。

ニューヨークやマイアミで生きるハイチ人たちの物語。アメリカではリトルハイチと呼ばれるハイチ人のコミュニティーがあってハイチ料理店で働いている人もいる。

 ハイチの貧困のレベルがどれだけ深刻なのかを物語るエピソードがある。「熱気球」という題目の短編でハイチの首都のポルトープランスの貧困地区でレイプの被害に遭った少女の回復センターで働く女性が現地の現状を報告している。レイプされた少女の中にはフィスチュラがある子たちもいた。この病気はアフリカでも報告されているが、産科ろう孔と呼ばれ未成熟な少女が医療にかからず出産、その結果、慢性的な便失禁、尿失禁にみまわれる。この物語は限りなく事実に近い話だろう。

 佐川愛子氏の巻末の解説も良かった。アフガニスタンで医療活動した中村哲氏と「熱気球」でハイチで人助けをするネアは共通しているなと思った。