82年生まれ キム・ジヨン

 

 恐らくフェミニスト小説で最も重要な本だと思う。韓国は女性が強い。国の男女平等ランキングでは韓国は日本を上回っている。これからもさらに上位に進むだろう。何故なら韓国では男女平等に真剣に取り組んでいるからだ。

 主人公はキム・ジヨン。キムは韓国では一番多い苗字。普遍性を求めるために平凡な苗字にしたのだと思う。働き詰めの夫と一才になる女の子の母親だ。彼女はやり甲斐のあった仕事を退職して専業主婦に専念した。そして育児鬱になった。毎年の夫の釜山の実家での集まりにウンザリした。父方の一家とは会うのは疲れる。そして精神的におかしくなった。

 精神科に通院して自らのこれまでの生涯を赤裸々に医師に語っていく。一言では言い表せないほどの女性差別があった。学生時代には露出狂や痴漢に遭遇して心の傷を残した。企業に入社してからの取引先の上司からのセクハラ発言、そして勤め先のトイレでは盗撮行為が行われていた。犯人は新しく雇った若い警備員だったが、何と職場の上司がその盗撮サイトの会員で盗撮画像を同僚にシェアしていた。キム・ジヨンが受けた女性として受けた性被害は深刻だ。

  彼女の母もまた古い男尊女卑の価値観の被害者である。家業を引き継ぐのは男だ。だから男を産みなさいと祖母からの重圧があった。長女が生まれて残念がる祖母。次女が生まれてまた残念がる祖母、そしてようやく第三子で男の子が産まれたら喜ぶ祖母。一家の大黒柱は男でなければならない。今の男女平等の時代では時代錯誤としか思えない。母のオ・ミスク氏は自分の兄弟たちの学費を稼ぐために懸命に働いた。一昔前までは女性に学歴は要らないと思われていた。だからこそ自分の娘には大学まで進学してほしいと思っていた。

 女性の苦しみとか痛みは見過ごされがちだ。何故だろう。男は生まれた時から特権を持っているような気がする。話は代わるがトルストイは家庭では専制君主だった。女は男を慰めないといけないと思っていた。100年前の人だからしょうがないが、行き過ぎた母性神話は現代では女性の社会進出を阻む危険がある。

 後、性犯罪はどうなるのか。日本でも痴漢、盗撮は日常的にニュースになるが、解決出来るのか。それはYesと言える。今の医学の進歩で抗うつ剤に使われるSSRI系の薬は性衝動を抑える副作用がある。深刻な性犯罪には厳罰と加害者のカウンセリングが必要だろう。