にごりえ 樋口一葉

 

 樋口一葉は日本のジョージ・エリオットか、ジェーン・オースティンか。とても思慮深い作風。百年以上前の小説だが全く衰えない新鮮さがある。現代でも通用する面白さがある。流石、五千円札の肖像に選ばれた人だ。

 わずか二四歳で夭逝した一葉だが、彼女の視点はとても成熟している。人間の人格描写が鋭いなと思った。明治時代にタイムスリップしたい。過去へのノスタルジーは無くて冒険するような気持で読んだ。一葉が描く明治時代の日本はとても貧しい。実際に日本は貧しかった。物悲しい雰囲気がある。貧しい境遇で生きた人たちを克明に描いている。

 表題作のにごりえはお酌を生業にするお力という女性を描いた物語だ。今の日本と女性の扱いはあまり変わらないが明治時代の日本女性はもっと厳しい立場だった。結婚した女性は家内と言われるが正しく家の人だった。男は外で働き女は男をお酌する。若しくは家で内職をする。今で言うホステスのような職業に就いているお力。身寄りはなく家庭を持つ気もなく酌婦として働いている。

 そんな彼女に貢いで家庭を顧みない源七。彼女の新しい恋人の結城朝之助。菊の井の看板娘であるお力。明治を舞台に鮮やかに描かれる人々。