ルクレジオはすごい。彼は世界中を舞台に小説を書いている。

表題作の「嵐」と「わたしは誰?」の二篇を収録。両方とも少女を主人公にした物語だ。

「嵐」は韓国の離島と思われる浜辺の埠頭で秘めた過去を持つ初老の男性と筋骨逞しい少女の物語。ルクレジオは今まで海をテーマに沢山の物語を書いてきたが、この二つの中篇小説もやはり海が重要な役割を果たしている。昨今のルクレジオは韓国の親しい関係にある。韓国の大学でフランス語とフランス文学を教えている。だから韓国での滞在経験から「嵐」が誕生したのだろう。父親に見捨てられた母娘は引きつけられるようにこの島にやってきた。現在ジューンの母親は島で海女として生計を立てている。だから母親に付き添われて毎日、ジューンは海を眺めについてきた。そんな時に出会ったのが埠頭で釣りをしていた、キョウだ。彼もまたこの島に縁があって30年振りに訪れている。過去に恋人のメアリーが島で入水自殺をした。悲しい記憶がある島に何故戻ってきたのか。彼はある犯罪を犯して罪悪感に打ちのめされている。海の美しい景色が彼を救ってくれると思ったのだろうか。とにかく、何らかのケジメをつけるために彼は島にやってきたのだ。彼は毎日、海岸沿いでテントを張り釣りをして自由気ままな生活を送っていた。ジューンと初老の男性との日々の邂逅。ややテーマが不透明だが海を舞台にした男女の物語で読む人は気持ちが楽になれると思う。

「わたしは誰」は韓国から一気に離れてガーナの湾岸都市のタコラディで始まる。ルクレジオを始め、欧州の作家たちはアフリカがとても身近な大陸なので頻繁に旅行に行ったりして通っていると思われる。特にイギリスとフランスはアフリカ大陸の大部分を植民地支配してきた歴史がある。だからルクレジオにとってアフリカは目と鼻の先にある大陸だ。彼はアフリカの伝統文化にもきっと精通しているのだと思う。日本から遠く離れたアフリカを舞台にした小説は新鮮で興味深い。継母に疎んじられながら育てられたラシェル。彼女の生い立ちの真実を探究する物語だ。ガーナから始まり、フランスに行きパリを彷徨いやがてまたガーナに帰る。タイトルが示す通り、これは彼女のアイデンティティーを探す物語だ。実はレイプされて孕まれた望まぬ妊娠で産まれたのが彼女だった。彼女は実母との再会では納得できずに最終的に彼女の出産に立ち会った産婆に出会うことで自分を納得させる事にした。

両方とも強い女性の物語だ。年齢は若いが精神的に成熟した大人の女性だ。

ノンフィクションでは絶対に書けない創造力を持つルクレジオの小説が好きだ。

嵐

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