失われた地平線

 

 シャングリラと呼ばれる理想郷がチベットの人を寄せつけぬ山奥にある。ペシャワール行きの乗っ取られた小型輸送機はチベットの山岳地帯に不時着した。乗り合わせたコンウェイはたまたま道中を通りかかった中国人の張に助けてもらう。(実際は全ては仕組まれた出来事だったのだが) 一同は視界を遮る霧を避けながら崖っぷちの道を行き命からがらシャングリラに辿り着く。 

 

 そこは正しく理想郷だった。渓谷の人々は穏やかで犯罪が少なく法律は存在はしない。皆が中庸を求めて平和に過ごしている。空気が清浄で住んでいる人々は皆長生きする。丸でトーマスマンの魔の山のようだ。(あれはスイスのダボスだったが) その上完全に俗界から遮断されているのに、西洋の近代的な設備が整っている。

 

 コンウェイ達が案内された僧院には大ラマがいる。滅多に会えないと評判の大ラマだがコンウェイとは親しく交流する。大ラマは100歳を超える大長寿でまだ健在だ。実際は200歳だとか。現実の世界では起こらない事がこの蒼い月の谷では起こる。

 

 コンウェイは世界大戦で傷を負い精神的に参っている段階だ。世界を破滅に導くもう一つの世界大戦が起きようとしている。1933年の時代背景はナチスが政権を掌握した年で、中国では日本軍の侵略が始まろうとしていた。コンウェイが恋心を寄せる、満州娘の羅珍との出会い。大ラマの秘密とコンウェイに託された思い。

 

 全体的によくまとめられている。古典として長く読み継がれているのも納得だ。でも羅珍の人物描写が少な過ぎて彼女の性格がいまいち理解出来なかった。もう少しコンウェイと羅珍のやり取りが必要だったと思う。