人生ミスっても自殺しないで、旅

 

 

 諸隈 元氏の「人生ミスっても自殺しないで、旅を読了。久しぶりに旅行記を読む。タイトルがいい。今の自分の心境を物語っている。筆者が傾倒するヴィトゲンシュタインの足跡を辿る旅だ。筆者はヴィトゲンシュタイン哲学書の「論理哲学論考」の小説化を試み、7年間引きこもって創作に明け暮れた。結果的に小説を完成させたが賞の受賞には至らなかった。彼は近所の書店でアルバイトととして働いている。だから旅行にはいつでも行ける身分なのだ。アルバイトでの収入があるので親の脛齧り無職ではない。自分と似たような立場なので共感しながら読んだ。

 

 

 父親の口座から引き落とされるJBCカードを手にロンドンのヒースロー空港へと旅立った。イングランドから始まりウェールズアイルランドルーマニアブルガリアクロアチアマケドニア(現北マケドニア)モンテネグロクロアチアボスニアスロベニア、イタリア、オーストリア、スイス、ドイツと僅か一ヶ月の旅行の間に目紛しく移動する。旅の時期が丁度Wi-Fiやスマフォが流行る直前の2009年だった。だから今よりも遥かに不便だった。諸隈氏は現地の旅行案内所で今晩泊まる宿を探した。

 

 旅行の一番の目的はヴィトゲンシュタインのゆかりの地を訪れる事だ。彼の故郷の地のオーストリアや母校ケンブリッジは勿論、彼が哲学に集中するために住んでいた人里離れた地、アイルランドの入り江にも訪れた。

 

 実は私は旧ユーゴスラビアの国は詳しくはない。ルーマニアブルガリアでは現地の人の優しさに触れボスニアでは第一次世界大戦の引き金になったサラエボ事件の舞台になった橋を訪れた。ミュンヘンではヴィトゲンシュタインの姉の肖像画が飾られている美術館にも訪れた。旅行を通して現実逃避が可能なのだ。とても贅沢な旅だと思った。宿代を節約する為には鉄道の駅で野宿をする。今で言えば空港で野宿するような感覚だ。最終的にはフランクフルト国際空港から日本に帰った。

 

 正直に言って著者が自殺するタイプには全く見えなかった。アイルランドスロベニアで二回、ヒッチハウスに成功している。今晩橋の上から飛び降りようと思っている人がヒッチハイクなんて出来るはずがない。悩んでいる人へのメッセージなのだ。旅に出れば幸せな生活が送れると。

 

 著者の諸隈氏が最も読者に伝えたい事は「自殺は罪だからするな。幸福に生きよ。自殺するぐらいなら旅に出ろ。」