ドリトル先生航海記

ずっと前からこの本が欲しいと思っていた。実は文庫化するまで待っていたのだ。予想通り、文庫化されたので買った。翻訳者は生物学者の福岡伸一氏で新訳だ。イギリスの海洋冒険小説って本当に面白いよねってつくづく思う。同じ島国なのに内気な日本人とはえ…

狩りの時代

2016年、2月18日、津島佑子は亡くなった。彼女は死の直前まで書き続けていた。書くこと自体が生きることそのものだった。自伝的な要素が強い小説。津島が12歳の時に亡くなった3歳年上の兄の思い出と、差別の物語。そして大家族の物語だ。 少し整理してみよう…

安野光雅 絵の教室

安野氏の絵を知ったのは、ちくま文庫のシェイクスピア全集だった。表紙は安野氏のとても個性的な画でシェイクスピアの世界観を見事に描いている。 安野氏の絵がカラーで掲載されていて、とても有意義な読書だった。風景画が特に良いと思う。安野氏の故郷の島…

ドリトル先生アフリカへ行く

ヒュー・ロフティングのドリトル先生アフリカへ行くを読了。 まず第一に金原瑞人氏の翻訳は何時も読みやすい。 動物が沢山出てくるので動物好きの人は読んだ方がいい。 オウムのポリネシアから動物の言葉を教わったドリトル先生のアフリカへの航海記だ。 搭…

ジャック・ドフニ 海の記憶の物語 津島佑子

初めての津島佑子の作品を読む。タイトルに惹かれて図書館で借りた。抜群に面白い小説。でも知らない知識が多過ぎて辞書を片手に読み続けた。手強い読書だった。この小説を読む上で欠かせないキーワードは「アイヌ」「キリシタン」「マカオ」である。いつだ…

ちいさな国で

いや、傑作。ルワンダ内戦に関しての小説は今まで読んだ事がなかった。あっという間に読んだ。著者のガエル・ファイユの本職はラッパーと詩人というから驚き。非常に多彩な人物だと思う。 ブルンジをご存知だろうか。僕は今まで名前ぐらいしか聞いた事がなか…

藤田嗣治 手紙の森へ

とりあえず入門用に読んだ。 筆まめな人だった。 恋多い男だったフジタ。 異国での生活を愛したフジタ。 中南米も訪れたフジタ。 膨大な量の日記と手紙を書いた。 この人もヴァネッサ・ベルと同じように二つの大戦を生き芸術に人生を捧げた人だった。 本と本…

わが妹、ヴァージニア 芸術に生きた姉妹

一語一句、丁寧に読んだ。まるで彫刻や絵のような美しさがある文章。 初めてこの小説のタイトルを読んだ時は頭が混乱した。てっきり、タイトルから察するにヴァネッサの自伝ではないかと思った。しかし筆者の名前はスーザン・セラーズという方だ。英題は「Va…

百年の散歩

多和田葉子の「百年の散歩」を読了。空想好きの語り手がベルリンを散歩する。都会は刺激に満ちている。異文化のサラダだ。特にベルリンは世界有数のコスモポリタンシティーだ。著名な学者の名前がストリート名になっているベルリンでは多くの歴史や文化に触…

ブラッカムの爆撃機

ロバート・ウェストールの「ブラッカムの爆撃機」を読了。いやあ絶品。宮崎駿のカラー画に翻訳者はベテランの金原瑞人。何とも贅沢な作品。しかも大型の本なので宮崎駿の画をじっくり鑑賞できる。やはり活字だけでは物足りない。 タイトルの「ブラッカムの爆…

素晴らしきソリボ

パトリック・シャモワゾーの素晴らしきソリボを読了。カリブ海の文学だ。すごい。世の中、知らない事がまだまだ沢山ある。クレオール語は私にとって未知の言語だ。シャモワゾーはクレオール文学の草分け的存在だ。今も自分の故郷のカリブ海にあるフランス県…

雪の練習生 多和田葉子

厳冬の冬の日には寒い本を読みたくなった。今の季節にぴったりの本を読了。「雪の練習生」はホッキョクグマの物語だ。多和田氏の筆力というか創造力がすごい。三つのお話に分かれていて、一話目の「祖母の退化論」では引退したサーカスの曲芸師のホッキョク…

偶然 アンゴリ・マーラ

いや。圧巻。絶版になっているのが勿体無いぐらい面白い。偶然は帆船アザールの冒険とアンゴリ・マーラの二つの作品を収録しているが、両方ともカリブ海の国々を舞台にした小説だ。僕は断然、アンゴリ・マーラの方が好きだな。アザールの方は話がちぐはぐで…

偶然 帆船アザールの冒険

海洋冒険小説だ。日本人にとってはあまり大西洋とかカリブ海の島々はあまり縁の無い世界だと思う。アンティル諸島はフランスの植民地だった。現在でもフランスの海外県として存在している。少女のナシマは褐色の肌を持ち、フランス人の母親のナディアとアン…

ノーザンライツ 星野道夫

アラスカで18年間暮らした星野道夫の現地での人との出会いと見聞の記録である。 まずアラスカと思い浮かべてどんなイメージが湧くか。私のアラスカの印象はアメリカがロシアから買った広大な土地。そこには荒れ果てた土地が続き自然が手付かずのまま残ってい…

始皇帝 中華統一の思想

渡邉義浩の始皇帝 中華統一の思想 「キングダム」で解く中国大陸の謎を読了。 前221年に秦の始皇帝が最初に中国大陸を統一した。それから現代に至るまで中国大陸の統一は一時的な分散はあっても現代でも続いている稀有な国だ。漫画キングダムの挿絵も解り易…

ビアンカ・ベロヴァーの「湖」を読了。以前、チェコのプラハに旅行に行ったことがある。プラハの冬の寒さは厳しかった。肌が痛くて歩く人は皆足早に歩いていた。ビアンカ・ベロヴァーはチェコ・プラハ出身の作家である。「湖」はナミという名の少年が幼少期…

バッタを倒しにアフリカへ

前野ウルド浩太郎氏の「バッタを倒しにアフリカへ」を読了。ベストセラー本は基本的に読まないつもりでいたが、何回も店頭で見かけてとうとう購入。感無量。こんなワクワクした新書は初めてだ。力の入れようが違う。光文社も大分、気合が入っているようにみ…

旅に出る時はほほえみを

ナターリヤ・ソコローワの「旅に出る時はほほえみを」を読了。本書は1965年に出版されたソ連時代のSF小説である。正確にはサイエンスファンタジーであって現代おとぎ話。地球の地底を移動出来る怪獣を開発した主人公の(人間) 彼はエリートであり首相に表彰さ…

奇食珍食糞便録

椎名誠の著書を初めて読む。まさかこんなにユーモアがあって面白い人だったとは思わなかった。まずタイトルのインパクトが凄い。糞便録なるパワーワードを初めて聞いた。世界のトイレ事情を綴った本だ。内容の3分の1は世界の珍しい料理について。 私も海外の…

荒木飛呂彦の漫画術

荒木飛呂彦の漫画術を読了。いやあ、これだけ綿密な準備をして漫画を描いているのは荒木氏ぐらいだろう。もう哲学の域に達してるレベル。徹底的に下準備をして自己分析して冷静に論理的に漫画を描いている。世界的にも人気のある彼の代表作でもある「ジョジ…

あたらしい名前

ノヴァイオレット・ブラワヨの「あたらしい名前」を読了。 すごい。ちょっと放心状態。アメリカで移民として生きる上での困難と喜び、貧しい祖国への恋しさと失望の葛藤を若い女性の視点で見事に描いている。 著者のブラワヨはアフリカのジンバブエから若く…

ある青春

パトリック・モディアノの「ある青春」を読了。20歳の男女の出会いを描いた静かでとても美しい小説だ。モディアノは人物描写が上手いなと思った。熟練した技術の持ち主だ。兵役上がりのルイは都会に出たばかり。パリで鬱蒼とした日々を送るオディールの二人…

シュナの旅

良い本は再読するようにしている。記憶力が悪いので直ぐに忘れてしまうので再読するのだが。「シュナの旅」は元々はチベットの民話だったそう。金色の種を探すために西に旅発つシュナ。テアとの出会い。神秘的な雰囲気。宮崎駿の絵には非情な美しさがある。…

戦場を歩いてきた

佐藤和孝の戦場を歩いてきたを読了。私は学生時代からチェチェン戦争とかアフガニスタン戦争とか日本からは遠く離れた異国での出来事にとても興味があった。チェチェン戦争関連ではアンナ・ポリトコフスカヤや常岡浩介の著書も読んでいた。多分、戦争ジャー…

消えたフェルメール

朽木ゆり子氏の消えたフェルメールを読了。面白かった。フェルメールの絵画に起こった盗難事件の話。1990年3月に アメリカのボストンのガードナー美術館でフェルメールの「合奏」とレンブラントとドガの作品が何者かによって盗まれた。今も行方不明のまま。…

ヤマザキマリの偏愛ルネサンス美術論

久しぶりの新書。ヤマザキマリの著作はこの本で二冊目。いや内容が濃い。ミケランジェロからラファエル、ダヴィンチ、ダンテまで登場する人物評である。冒頭にはカラーの画像もあるので大変満足。 白黒の画像も多数収録。どこかで見たことがある画があってで…

水木しげるのラバウル戦記

水木しげるは93歳まで生きた。もしかしたら若くして戦死していたかもしれないが。すごい強運の持ち主というか身体がすごい丈夫だった。たまたま歩哨の任務に就いていたら仲間が残る宿舎が敵から攻撃を受けた。自分だけが生かされた。敵からの空襲で片腕を失…

腰ぬけ愛国談義

半藤一利と宮崎駿の腰ぬけ愛国談義を読了。 宮崎駿と半藤一利の対談本である。2人とも長年の知恵と経験がある。すごくいい本。宮崎駿の航空機への思い入れが深く、本書を読めば「風立ちぬ」が細部までより深く楽しめる。宮崎駿のアニメーションへのこだわり…

マイトレイ

ミルチャ・エリアーデのマイトレイを読了。珠玉の恋愛小説。また本棚にずっと残しておきたい本が増えた。フォースターのインドへの道が出版されたのが1924年でエリアーデのマイトレイは1933年に出版された。両方とも異文化の接触が物語のメインで異なる民族…