ブラッカムの爆撃機

 ロバート・ウェストールの「ブラッカムの爆撃機」を読了。いやあ絶品。宮崎駿のカラー画に翻訳者はベテランの金原瑞人。何とも贅沢な作品。しかも大型の本なので宮崎駿の画をじっくり鑑賞できる。やはり活字だけでは物足りない。

 タイトルの「ブラッカムの爆撃機」は児童向けに書かれた物だが、十分に大人も愉しめる内容だ。作者のウェストールは読者の心を掴むのが上手い。物語の世界にどっぷり浸かった。第二次世界大戦中の英国軍の航空機がドイツの街を爆撃してドイツ軍の航空機を撃墜する話である。軍隊の中でも評判の悪い、ブラッカム軍曹がドイツ軍の航空機を撃墜するが、ドイツ軍の死亡したゲーレン中尉の呪いに侵されてしまう。ブラッカムのS機にゲーレン中尉の亡霊が住み着いてしまったのだ。基地に戻った後も無線機からはゲーレン中尉の断末魔が依然として聞こえてくる。頭がおかしくなったブラッカム軍曹は精神病院送りになってしまう。S機に搭乗していた仲間たちも飛行場には戻らず行方不明のままだ。次々に乗る人が不幸に見舞われるS機に搭乗を任されたのは主人公のゲアリーたちが乗るC機の連中だった。。。

 この物語は戦争物を扱うが、子供が好きな幽霊が出てくるので上手い具合に調和されているのだと思う。

 ドイツ軍のユンカース機とS機との空中戦の描写は見事で大変白熱した。無線機がここまで重要な役割を果たすとは知らなかった。C機に乗る無線士のゲアリーはS機にドイツ軍の戦闘機が雲の影に潜んでいることを無線で伝えるが、実は敵機の無線の声も拾ってしまう。ゲーレン中尉の最期の炎に焼かれ悶え苦しむ声が聞き取れるが、何とも恐ろしい場面だ。

 そして何と言っても宮崎駿の画だ。宮崎はウェストールの熱心な読者で彼の作品の多く読んでいる。宮崎の創造力がすごい。C機をまるまる画で再現してしまったのだ。宮崎が元々航空機に詳しいので細部までみっちり描けたのだと思う。ウェストールのダラム大学での戦争は美術だが、爆撃機の飛行シーンはまるで実体験のように正確で驚かさせる。ここまで完成度の高い作品は久しぶりに読んだ。金原瑞人氏の翻訳は完璧。

 また50頁ほどの中編小説の「チャスマッギルの幽霊」も子供心をよく理解している、ウェストールらしい作品だと思った。第一次世界大戦の死場所を失った彷徨う幽霊が棲みつく屋敷でチャス少年と幽霊軍人との邂逅。設定が実に面白い。ワクワクする。

 ウェストールの生涯は波乱に満ちていたが、彼の遺した物語はずっと読み継がれていくだろう。ウェストールの他の本も読もう。