ドリトル先生航海記

 

 ずっと前からこの本が欲しいと思っていた。実は文庫化するまで待っていたのだ。予想通り、文庫化されたので買った。翻訳者は生物学者福岡伸一氏で新訳だ。イギリスの海洋冒険小説って本当に面白いよねってつくづく思う。同じ島国なのに内気な日本人とはえらい違い。著者による挿絵入りなのが嬉しい。やはり活字だけでは物足りない。ドリトル先生航海記は1922年に出版された。100年近く前の小説なのに全く色褪せない。福岡伸一氏の翻訳は瑞々しく、全く問題なく物語に集中出来た。

 前回の「ドリトル先生アフリカへ行く」の続編が「ドリトル先生航海記」だ。初めて読む人は順番通りに読んだ方がいい。いきなり航海記から入るとちょっと物語の背景が見えにくい。アフリカに留まったはずのオウムのポリネシアとお猿のチーチーはドリトル先生が恋しくて、先生の住む町のパドルビーに戻ってきた。先生は相変わらず、動物の世話をしたり自分の研究に没頭したり忙しい。今は貝と話せるか貝の言葉を勉強中だ。

 ドリトル先生と航海を共にするのが、スタビンズ少年だ。雨の中で2人は偶然に出会った。先生の家は少年にとって夢のような楽園だった。動物園のように柵がなく動物たちが自ら内側から鍵を掛けられる小屋に住んでいた。先生は動物を見せ物にするのを嫌っていた。少年は感動した。動物の言葉をポリネシアに教わって先生の助手になった。そしてスタビンズはいつかは世界を見てみたい夢があった。何とか両親を説得させてドリトル先生と航海に同行した。

 ドリトル先生は定期的に自分の研究の為に航海に出る。今回は博学のインディアンのロング・アローに会うのが旅の目的だ。ドリトル先生航海記は著者の動物愛に満ちている。登場してくる動物たち、アヒルのダブダブやお猿のチーチー、オウムのポリネシア、犬のジップ、皆ドリトル先生が大好きだ。旅の途中で寄った島でスペインの闘牛のショーが行われる事を知って激怒したドリトル先生。牛が圧倒的に不利な状況で人間と戦わせるなんてひどいと思ったドリトル先生は自ら闘牛士になる。勿論、事前に牛と会話して芝居をするように約束する。

 海のカタツムリの殻の中に入ってブラジルの浮島から、祖国のイギリスへ帰る途中の描写が良かった。殻は透けているので、深海の様子を観察できる。深海魚がいたり海の底は平面ではなく地上の山のようにデコボコしている。

 とても愉快な読書だった。動物の言葉を話せるなんて夢があって良いよねと思う。

 

ドリトル先生航海記 (新潮文庫)

ドリトル先生航海記 (新潮文庫)