素晴らしきソリボ

 

 パトリック・シャモワゾーの素晴らしきソリボを読了。カリブ海の文学だ。すごい。世の中、知らない事がまだまだ沢山ある。クレオール語は私にとって未知の言語だ。シャモワゾーはクレオール文学の草分け的存在だ。今も自分の故郷のカリブ海にあるフランス県マルティニークを土台に小説を書き続けている。  クレオール語を辞書で引くと「主としてヨーロッパの言語と非ヨーロッパの言語が接触して成立した混成語のうち、母語として話されているもの」であるそうだ。カリブ海の島々といえばスペイン語が多いイメージがあるが、英語及びフランス語とクレオール語公用語の国も結構多い。

 物語はマルティニークという小さな島である事件が起こる。皆から尊敬され愛されていたソリボがカーニバルの夜に「言葉に喉を引き裂かれて死んだ」とても奇妙な事件が起こる。犯人は14人の聴衆の中にいると警部のピロンは考える。容疑者がソリボを毒殺したと推理して彼の遺体の検死を医師に依頼するが。。。ネタバレになるので物語の核心には触れない。

 犯人探しの推理小説の形をとっているが、南米のマジックリアリズムのような描写がありまた、ユーモアもあって面白い。ソリボは貧しい炭売りで街を小汚い格好でうろつく謎に包まれた存在だ。彼の死体が死後どんどん重くなっていって人力では運べないので最終的にレッカー車を呼ぶ。島には存在しないはずのマニオク蟻が大量に彼の死体に集まる。巡査部長のブアフェッスは一人一人、聴衆たちから事情聴取を取っていくが。。。

 物語には「ベケ」と呼ばれる白人富裕層と「ネグ」とクレオール語で黒人を意味する言葉が出てくるが登場人物は皆黒人だ。支配者層の白人と被支配者層の黒人という縮図はアフリカとか南米とかと一緒なんだなと思った。話が横道に逸れたが、容疑者の「ネグ」達はクレオール語しか話せないので、警部たちは彼らの供述をフランス語に翻訳してから調書を作成する。

 本書は1988年に出版されたシャモワゾーの初期の作品だ。それが四半世紀経って日本語に翻訳されたのだ。最後の章のソリボのカーニバルの夜での口上が文章で再現されるが、全くもって意味不明。解説によればシャモワゾーは失われつつある、マルティニークの口承文学をこの小説で表現しようとしたらしい。それはカーニバルの夜にソリボがタマリンドの木の下で語り手として聴衆に向かって楽しいお話をする事だ。文字では無く言葉で人を楽しませる。フランス語だけでは無くて、クレオール語も登場するので翻訳者は訳すのに大変苦労したのだと思う。翻訳にかける意気込みはすごくて日本人とフランス人の翻訳者が協力して日本語に移し変えた。

 フランスの入植の歴史やマルティニーク島の食文化など、日本人にとっては縁の無い知識が登場するので新鮮な読書体験だった。

キャッサバと呼ばれる芋に似たのを食べ物があるらしい。(キャッサバは毒抜きが必要) 

素晴らしきソリボ

素晴らしきソリボ