百年の散歩

 多和田葉子の「百年の散歩」を読了。空想好きの語り手がベルリンを散歩する。都会は刺激に満ちている。異文化のサラダだ。特にベルリンは世界有数のコスモポリタンティーだ。著名な学者の名前がストリート名になっているベルリンでは多くの歴史や文化に触れられる。

 カールマルクス通りでのアジア系のドイツ人やトルコからの移民の話。ベルリンで語り手が目撃した景色は夢と現実の境目はない。彼女の想像力は凄まじく歴史上の人物と会話したりする。マルティンルター通りではナチスドイツに叛旗を翻したシュル兄妹のお話。最早ドイツに勝利はない。このまま戦争が続けば、もうじき赤軍が攻めてくると、ビラを撒いで国民に伝えようとしたが国家への反逆罪で処刑される若い兄妹。高校生がこれを「白薔薇」と題して演劇化して舞台で練習する様子を目撃する語り手。

 本屋で詩集を立ち読みしたり喫茶店で人間観察したりレストランでは聞き慣れない名前のメニューを読んだり自由気ままにベルリンを散歩する。プーシキン並木通りでは第二次世界大戦で命を落としたロシア人のモニュメントがある。甘党の語り手はデザート巡りも面白い。バナナパンやチーズケーキ、食事も楽しみだ。トゥホルスキー通りでは「イスラエルシナゴーグゲマインデ」という名のイスラエル系のお店に入る。
知的好奇心に満ちた一冊。

 

百年の散歩 (新潮文庫)

百年の散歩 (新潮文庫)