韓国フェミニズム小説集 ヒョンナムオッパへ

 いい読書だった。フェミニズムというワードに引かれた。小説の世界は今まで男性中心だった。僕は新しい物が好きだ。フェミニズムと聞いて新鮮な響きがあった。今の日本に足りない物だ。日本が旧態依然としている時に韓国はもっと前を行っている。男だろうが女だろうが力を持っている人は評価されるべきだ。皆んなジェンダーレスな人間になるべきだ。

 全部で7つの小説。著者は皆若い。物語も現代物からSF物やハードボイルド物まで様々だ。

短編集の前半はとても現代的な作品で韓国の男女格差を女性の視点から描いている。オッパとは女性から見た恋人への呼称だ。男を上の立場にして使われるようだ。男性の権力が強い韓国では女性が命令されてたり彼氏の意志で彼女の環境や職場が変わる事に驚いた。自立を妨げて男が全てを支配しようとする構図に嫌気がさした彼女は最後にヒョンナムオッパ(ヒョムナムは彼氏の名前)に向かって暴言を吐いて別れる。

 

 異邦人というタイトルの探偵小説が特にいい。VRのバーチャル自殺プログラムの中毒だという元刑事の彼女とその相棒の彼のサスペンス風の物語だ。VRの仮想の世界で何時も、崖っぷちに立ち自殺を試みようとする彼女は引きこもりだ。後輩の同僚の彼が新しい事件の書類を持ってきて彼女に職場の復帰を願う。銃撃戦もあってハラハラドキドキするような展開で楽しかった。

 

 「ハルピュイアと祭りの夜」もよかった。女装のコンテストに出場するためにピョはある島に訪れる。すると出場者を狙うハンターが表れて彼らを弓で殺そうとする。実はこのコンテストの出場者にはある共通点があって皆過去に女性への暴力で執行猶予を受けたり実刑判決を受けた者ばかりなのだ。つまり孤島に集めた前科者の男性をハンターが弓で殺そうとする女性からの復讐劇だ。

 

 「火星の子」もよかった。火星でライカという名前のシベリアンハスキーと探索用のロボットのダイモスと「私」の3人の物語だ。まだ人類が足を踏み込んだことのない惑星の火星でクローンの私は数百年前にソ連のロケットで打ち上げられて発射後間もなく死んだ犬のライカと遭遇する。一人寂しく火星に佇んでいた私は生命との出会いにとても感謝する。そして埃を被って埋もれていたロボットのダイモスも仲間に加わる。私は自分が妊娠をしていると知り、新たなる生命の誕生を火星で迎える。ライカは言葉が喋るので色んな助言を私に教える。短編にするのが勿体無いぐらい心温まる作品だった。動物だとか機械だとか関係なく友情を育むいい作品。