なにかが首のまわりに

 

 チママンダ・ンゴズィ・アディーチェによる12の短編小説集。文句なしに全部面白かった。ナイジェリアの人々にとって決して忘れてはいけない歴史のビアフラ戦争。ナイジェリアからアメリカに移住する人々。著者の自己体験を投影したと思われるナイジェリアでの生活とアメリカでの移民生活。そして南アフリカで行われたアフリカ人作家によるワークショップ。タンザニア人や、南アフリカ白人、ケニア人、フランス語を話すセネガル人、主催者のイギリスから来たアフリカーナ、ジンバブエ人の作家たちがそれぞれ、滞在先のケープタウンで物語を創作し発表してお互いに批評し合う。とても面白い設定だ。

 

 何故、アディーチェの作品がここまで世界で評価しているのだろう。彼女の類いないストーリーテラーとして才能は勿論だが、平易で明快な文章もいい。現代のトルストイと言ってもいい。日本と同様に女性の地位が低いナイジェリアで彼女が不動の作家の地位を築くのは大変だったと思うがこれからも期待できる作家だ。

 

 今まで白人が描いたアフリカを舞台にした物語はいくらでもある。でもアフリカ人にしろアジア人にしろ野蛮人のような扱いを受けてきた。まるで人間扱いされていない。でも今はグローバルな時代。白人が描くアフリカは時代遅れだ。コンラッドみたいに人種差別的な作家はもう古い。現代ではやはりアフリカ人がアフリカを書かないといけない。アディーチェが尊敬するチヌア・アチェべはアフリカを代表する作家だが、アディーチェも同様な存在だ。アディーチェほど、ナイジェリア人としてアフリカ人としてのアイデンティティに真摯に向き合った作家は他にはいない。彼女はこれからも自らの内部を追求していくだろう。