ロサリオの鋏

 

 コロンビアの作家のホルヘ・フランコが書いた「ロサリオの鋏」を読破!

 まずコロンビアと聞いて何が思いつくだろうか。コカインの製造元、麻薬組織によるテロ事件、銃による殺人事件。兎に角、暴力的で治安の良くない国。正しくその通りなのだが人と人との繋がりが濃い。人間関係が希薄な日本とは大違いだ。著者の出身地のコロンビア第二の都市、メデジンが物語の舞台だ。メデジンアンデス山脈に囲まれた盆地の街。

 物語はロサリオがひん死の重体の状態で病院に担ぎ込まれるシーンから始まる。彼女に一途な思いを寄せる語り手の男の回想が病院の待合室で始まる。住む世界が違う。死が隣り合わせの世界。コロンビアでは強くないと生きてはいけない。ロサリオはとても逞しい女性だ。混血で名字も分からず年齢や出生も定かではない。彼女はまだ十代の時に道端で夜一人で家に帰る途中に見知らぬ男にレイプされた。しかし泣き寝入りなんてしない。犯人を見つけ出して男のペニスをちょん切った。実の母親に絶縁されて、危険な麻薬組織のマフィアの下で働き出した。狙った獲物はキスをしながら銃を撃って殺す。彼女は多くの男性に愛されていた。

 主人公の語り手と彼女の恋人のエミリオ。エミリオと語り手の男はスペイン系で由緒正しい家柄の富裕層だ。親から家や車、何でも与えられて育った恵まれた階級。エミリオとの友情もあるが語り手はロサリオを愛している。物語は三角関係のような構図だ。彼女に振り回される二人。いつの日かロサリオとエミリオは麻薬組織の別荘で薬物中毒になった。そんな二人を見限って語り手は一旦離れるが、それでもまた戻って薬中のロサリオを看病する。絶望の淵に居る時は希望を見出すしかない。語り手の懸命な看病の結果、彼女は力を取り戻す。

 いつしか、ロサリオは親友であり元恋人のフェルネイが殺されて敵討ちに出掛ける。それから三年間、彼女は行方知らずだった。場面は冒頭に戻る。久しぶりの再会だった。彼女の一生は常に危険と隣り合わせだった。彼女の職業は麻薬組織に雇われた殺し屋で今まで多くの殺人事件を犯した。実際にコロンビアでは貧困層に生まれて来たら、まともな教育を受けられず、麻薬組織に雇われる女性も多くいる。本書はコロンビアはベストセラーになってテレビドラマ化もされた。訳者の田村さと子氏は著者のフランコボゴタの自宅で翻訳作業を行ったそうだ。また違う世界が見れて嬉しい。