秋 アリスミス

 

 とても現代風の作品だ。この小説で取り扱っているテーマは複数ある。EU離脱ナショナリズムが跋扈するイギリス、現在でも女性の立場が弱い世界を(著者は日本なんて論外だと思っているかも)心配する声、そして読書や絵画、芸術の愉しみ。

 

 101歳の老人のダニエルと32歳のエリサベスの友情の物語だ。そしてポーリーン・ボティの存在。現在と過去が交錯して物語は進んでいく。現在のダニエルは殆ど寝たきり老人で介護施設で暮らしている。お見舞い行くエリサベスは美大出身で芸術的なセンスを幼い頃にダニエルから教わった。

 

 過去にはエリサベスが新しく引っ越した家の隣がダニエルだった。学校の宿題で隣人の住民にインタビューするのをきっかけに二人の友情が始まった。幼い時のエリサベスは多くの事をダニエルから教わった。物語の作り方、絵画の素晴らしさ、そしてボティの存在を教えてくれたのもダニエルだった。後にエリサベスは美術生時代にボティの論文を書くことになる。

 

 読書好きのエリサベスとダニエル。本書で言及される作品はシェイクスピアの「テンペスト」とディケンズの「二都物語」と「素晴らしい世界」

 

 現在のイギリスの状況が表れている箇所があった。駅でタクシーの列に並んでいるスーツケースを持ったスペイン語を話す二人組。その後ろの列から「ここはヨーロッパじゃないぞ。」っと怒号が聞こえる。EU離脱国民投票で決まった混迷の時期。エリサベスの母親は人種差別に反対して移民への隔離施設の電流が通っている鉄柵に向かって骨董品を投げつける。隔離なんて許せないと怒りを滲み出しながら。

 

  そもそもスミスがこの物語で一番取り上げたかった存在はポーリーン・ボティ(Pauline Boty)だと思う。まだ女性が軽視されてた時代に、男ばかりの芸術家の世界でボティは唯一の女性画家だった。芸術界のフェミニストの先駆者だ。美人で女優にも抜擢され画家としても活躍した。女性が虐げられる世界を絵で残して男性中心の世界に抗議した。そして若くして癌で亡くなった。日本ではあまり知られていないが著者のスミスは入念に彼女の生涯を調べてこの小説を書いた。ラストは殆どボティの物語だ。彼女が女だからと理由で差別された過去が赤裸々に語られる。当時は美術大学で女性は珍しかった。ボティの母親のベロニカは性別を理由に進学を父親から禁止されたいた。ブロンドだから女だからと馬鹿にされた。男に生まれてきたら幸せだったのにと思った幼少期のボティ。

 

スミスは類稀なるフェミニスト作家だと思った。色々、考えさせられる読書。