引き潮

 

 宝島で有名なスティーヴンスンの「引き潮」を読了。コナンドイルのお気に入りの海洋小説だとか。本邦初訳。一見、浪漫の冒険海洋小説かと思いきや実はそうではない。正確には前半はワクワクするような展開が待ち構えている。タヒチ島で浮浪者のような生活を送るへリックと元船長のデイヴィスと元店員で怠惰なヒュイッシュ。三人の性格はバラバラだ。正義感の強いへリックは大学出のインテリで青年。元船長のデイヴィスは大男で豪胆な性格。過去に船員を死なせた罪で船長を首になっている。ロンドンの元店員のヒュイッシュが厄介な存在だ。明らかに二人の足を引っ張っている。

 

 三人は廃墟の刑務所を寝床にしながら食べ物を求めて島を彷徨う歩く。その日暮らしの生活だ。元船長のデイヴィスが賭けに出る。ワインを南米まで運ぶ任務につく。浮浪者はいずれはこの島では逮捕される運命だからだ。三人の男たちの船旅が始まった。

 

 途中で暴風雨にあったり船長とヒュイッシュが酒に溺れたりトラブルに遭遇する。前半部分の島の美しい海や木林の描写と比較するとこのあたりから人間の醜悪な部分の描写が多くなる。酒癖の悪い二人に呆れるへリック青年。

 

 そして後半からはガラリとサスペンス風の物語に変わる。実は任された積荷のワインのボトルの中身は全部水だった。彼らは悪徳商人に騙されていた。三人は事態を打開する為に南米行きを諦め地図に載っていない島に流れつく。

 

 その島にはアトウォーターという名の男が住んでおり島で採れる真珠を独り占めしていた。船長は真珠を横取りしようと企みアトウォーターが指示通りに真珠を渡さなかったら彼の命を奪うのも仕方がないという。物語はいつしか冒険から船長とアトウォーターとの対決に変わっていく。船長は疑心暗鬼に駆られたり人間臭い描写や内面の葛藤が多くなり心理的な小説になっていく。

 

 へリックは真面目なので略奪なんて絶対に出来ない性格だが、まだ若くて未熟だからか精神的にとても不安定だ。アトウォーターが過去に島の罪人を殺したのを本人から明かされるとへリックはパニックになった。人殺しは信用できないとへリックは言う。飲んだくれのヒュイッシュがアトウォーターに船長の作戦を酔った勢いでバラしてしまった。作戦が筒抜けになってしまった事を知らずに作戦を実行に移す船長だが既にアトウォーターは銃を携えて待ち構えていた。完全に予想外の展開だが、人間同士の駆け引きがあって面白かった。いい意味で裏切られた展開。