そこのみにて光輝く

 佐藤泰志の「そこのみにて光輝く」を読了。青春小説だ。北国の海辺の小さな町を舞台に起こる若者たちの物語。若いと言ってももう三十路手前だが。ギャンブルがあって傷害事件があってセックスがあってタバコを吸う。悲しい雰囲気は全くなく、物語は淡々と進んでいく。佐藤泰志村上春樹とか中上健次と同世代の作家だがあまり知られてはいない。

 とても静かで素朴な小説だ。僕の好きなタイプの作家だ。高層住宅に囲まれた、路地裏の粗末なバラックにある一家が住んでいた。貧しく父親は寝たきりで、息子は刑務所に入っていた過去があり娘の千夏は水商売で生計を立てている。社会の底辺の一家だが家族の絆は強く一人息子の拓児は姉からも母親からも愛されている。とても小さな光だが輝いているのだ。もう三十年以上前に書かれた小説なので時代を感じさせるが人との出逢いを巧みに描いている。