神去なあなあ日常 三浦しをん

 

 最早説明不要の傑作だと思う。久しぶりに読み返した。やはり良い。都市部のストレスフルな生活に疲れた人、身近に自然が無い人にはオススメ。この小説から漂ってくるのは森林の豊かな香りだ。昔から俺は山とか川とか自然が豊かな土地に住むのに憧れていた。日本列島のほとんどは山だ。どこもかしこも山ばかり。神去村もそんな山奥に存在したに違いない。

 

 林業は奥が深い。山の斜面に大木を垂直に植えるのには工夫がいる。無駄な枝木を切って木の負担を減らし木が垂直に保つようにしないといけない。例えば神社に向かう途中にある階段の横にある大木が立派に育っているのも林業の職人さんのお陰である。

 

 横浜から高校を卒業したばかりの平野勇気がひょんな事から三重県の山奥に飛ばされる。神去村での生活は戸惑いの連続だが、新しい発見の連続でもあって楽しそう。神去村の住民は皆顔見知りなので見慣れない顔はすぐに分かる。「村八分」という言葉があるが、神去村に住む人たちはとてもオープンマインドだ。村に住む人たちは「なあなあ」を大事にする。滅多に怒ったり声を荒げたりしない。最初は余所者扱いされた勇気だが、徐々に村人たちと打ち解けていく。

 

 冬は雪の積もったスギの木から雪を退けてあげる。春は比較的過ごしやすい季節だ。夏場はお祭りがあったり沢で蛍をみたり楽しい季節だ。沢では天然のウナギが漁れる。村の人たちは習慣をとても大事にしている。ほとんど宗教に近い。ある日、山太という子供が行方不明になった時に長老が神隠しだと言い、神去山の祠まで祈りに行く場面がある。白装束の特別の衣装を着て。山太は無事に保護されるが自然の神様が彼を住民たちの前に連れていってくれたのだろう。最早論理では語れない不思議なパワーだ。

 

 面白いのは宮崎駿がこの本をリコメンドしていた。勇気が樹木から舞い降りる大量の杉の花粉に見舞われる時にナウシカを連想して「午後の胞子を飛ばしている」っと口ずさむ場面がある。ジブリっぽいと指摘されれば確かにそうかもしれない。

 

48年に一度だけ行われるオオヤマズミさんのお祭りでは千年の杉の木を切ってそれに乗って山を駆け降りる。とても風変わりで奇妙なお祭りだが村の人達は信心深いので勿論本気だ。普段、私たちが気付かないだけで樹齢20年、30年の立派な樹木は沢山ある。これを機に少し木を観察するために山に出掛けようと思った。小説の下準備の為に林業に関しての本を読み実際に林業に携わる人にも取材した模様の三浦しをん氏はすごいなと思った。