長い旅の途上

 

 星野道夫の素朴な文章が好きだ。沢山の小さな物語。ムースやグリズリー、カリブー、多くの動物を見た。星野は特にカリブーの北極圏の季節移動に魅了されていた。北極圏の厳しい気候で何千キロもの旅をするカリブー

 ブルックス山脈は自然が手付かずに残されていて星野が時に気に入っていた山脈だ。人も来ない。彼はそういう観光客が決して訪れない土地が好きだった。

 沢山のオーロラを見た。彼が住むフェアバンクスからもオーロラは見れたが、アラスカ山脈のルース氷河から見るオーロラは格別だった。日本の子供たちも招待した。

 ザトウクジラの捕食シーンを見た。泡で魚を囲み追い込み空中に出て豪快に丸呑みする光景は圧巻だった。

 アザラシの脂肪を溶かして作ったシーンオイルに付けてカリブーの生肉を食べた。シーンオイルは強烈な匂いを放つエスキモーの伝統的な食べ物だ。

 

学生の時に親友が遭難事故で若くして亡くなった。星野は思った。人生には限りがある。彼がアラスカに訪れる一つの理由だった。

 

 星野がまだ20歳の時にアラスカの写真集で見たエスキモーの村の写真にとても感動した。訪れてみたいと思い、住所や宛名が不確かなまま手紙を送った。すごい行動力。複数の村に手紙を送ったがどれも返事は来なかった。しかし、まさかとは思ったが半年後にエスキモーの家族から返事が来た。手伝いたいなら世話するよと。一夏のエスキモーの家族と過ごしたアラスカでの日々が星野青年にとってはとても大きな財産だった。またアラスカに帰って来たい。ここに住みたいと思った。結局大人になってから星野は18年間アラスカに住んだ。星野が住むフェアバンクスに土地を買い一軒家を建てた。子供も生まれた。完全にアラスカに根を下ろすつもりだった。

アラスカ中を隈無く探検した。決して誰もが訪れることがないアラスカ北極圏に行った。

旅をするのは簡単だ。でも星野の場合は旅先で多くの人と出会い彼等から話を聞いた。

南東アラスカにあるシトカという町はとても美しい町として有名だった。

ボブは酒に溺れて一時期浮浪者のような生活をしていた。しかし生まれ故郷のシトカに戻り森の中の墓地を掃除した。クリンギットインディアンの墓だった。彼にはアラスカ先住民の血が流れていた。無償で10年という歳月をかけてインディアンの墓を守った。ボブの利害を求めない人柄は多くの住民からは尊敬の目で見られていた。

アラスカは辺境な土地だ。そこで星野は自らの物語を創造した。ブルース・チャトウィンパタゴニアにも通じるものがある。