星野道夫 魔法のことば

 

 魔法のことばを読了。この本を読んでとても幸せな気持になった。心の健康にとてもいい読書だと思った。星野は偉大な存在だと思う。何故なら彼は人が訪れた事がないような南東アラスカやアラスカ北極圏で自分だけの物語を創造したのだから。彼の名前通り星野は自分で自分の道を作った。アラスカは僻地で人口過疎地で一見した所、何もない土地にみえるが、そこにはインディアンやエスキモー、白人が住んでいて皆自然と共生する様に生活している。そこには狩猟生活が続いていて人々は自給自足の生活をしている。

 

 この本は星野道夫による10の講演集だが、聴衆が毎回変わるので重複するエピソードも多い。しかし彼のアラスカでのエピソードや、子供の頃から北の寒い地域に憧れていた話は何度聞いてもいい。星野はアラスカに暮して18年の歳月が流れた。本一冊ではとても収まりきれない沢山の面白い出来事があった。

 

 太古の昔から続いている北極圏のカリブーの季節移動に星野は魅了された。星野が住むフェアバンクスの壮大なオーロラは迫力があって生き物のように動いている。太陽が沈まない夏場の白夜の間中は皆が活発に動き回る。秋はブルーベリーやグランベリーを集めるために人々も熊も大忙しだ。集めたブルーベリーでジャムを作って長い冬に備える。アメリカ本土からやってきた暗い過去を背負ったある一家のお話。ベトナム戦争の帰還兵のインディアンの話。皆それぞれアラスカに住む人々の背景は違う。星野自身がそうだが、皆アラスカのダイナミックな自然に救いを求めてやってきたのだ。

 

 北極圏にあるポイントホープ村でのクジラ漁のお話がとても好きだ。エスキモーの人たちのクジラ漁に同行させてもらった星野は料理係だ。氷の上にテントを張り、クジラが現れるまで待機する。氷にできる小さな亀裂(リードと呼ばれる小さな海)を探してそこに沿ってテントを張る。クジラを銛で仕留めて捕獲できたら皆んなで集まって解体して残さず食べる。そばでは高齢の女性がクジラへの感謝の踊りを披露している。

最後にはクジラの顎骨を海に返す。長年のしきたりなのだ。解説の池澤夏樹氏の言う通り、この物語は効率が全てを損ねてしまう前の原始的な生き方なのだ。

 

 南東アラスカでのホエールウォッチングも面白い。ザトウクジラはアラスカの海の豊富なプランクトンを求めてハワイからやってくる。魚の群れを見つけると泡で囲み魚が海面に逃げていった時にザトウクジラが豪快に喰らう。