「他者」の起源 ノーベル賞作家のハーバード連続講演録

 

 トニ・モリスンは非白人で女性で全く新しいタイプの作家だった。アメリカの人種差別は根深い。今でさえBLACK LIVES METTERのデモ行進がニュースで流れている。でも一方でアメリカでは真摯に人種差別問題に取り組んでいる風にみえる。イギリスはまだまだ白人の国だ。イギリス王室は非白人の血を入れたくないのは明白だし、白人至上主義のオッサンも結構いる。

 本書ではモリソンのハーバード大学での複数の講義を文章化した。アメリカでの人種問題は、白人が黒人へする差別の問題だ。アメリカ人とはあくまでも白人の事であって黒人の人々はブラック・アメリカンであってアメリカ人と一緒くたに呼ぶ事はない。例えばヨーロッパ系の人はすんなりアメリカ人になれるが、黒人は自分の故郷が一体何処なのか分からず矛盾を抱える。なぜなら、黒人はヨーロッパ人によって奴隷としてアフリカからアメリカに連れて来られたからだ。第一、アフリカ系アメリカ人と呼称にも大きな疑問がある。アメリカの黒人はアフリカを知らない。自分のルーツがアフリカという大陸にあるだけでアフリカに行ったこともないし何の接点もない。その上、自分の生まれ育った国のアメリカでも奴隷として差別された長い歴史がある。

 奴隷に人権など無いに等しい。地主の白人が奴隷を乱暴する事実があった。また次なる働き手を必要とする為子供が必要だった。地主の日記に乱暴した詳細が綴られていた。それをモリスンは奴隷制度の「ロマンス化」と呼んだ。アメリカ南部の人種差別の問題は特に深刻で南北戦争後に奴隷制度が廃止されてからも「ジム・クロウ法」と呼ばれる法律で残っていた。だから人種差別の法律が無くなったのはリンカーン大統領が奴隷制を廃止してから100年後の1964年。

 タイトルの「他者」の起源とは何だろう。それは白人が黒人を知った時に初めて自分の肌が白いと気づく時であると僕は思った。アメリカの古典でも常に黒人の登場人物が出てくる。ヘミングウェイメルヴィル、フォークナー。アメリカ文学の古典は常に白人男性が主役だった。

ちょっと難しい読書だった。モリスンがアメリカ南部のルビーという名の架空の黒人街を舞台に書いた「パラダイス」という小説があるので今度読んでみよう。