水深五尋

 

 こういう物語はイギリス人にしか書けないなと思った。海に囲まれた島国だからこそ書ける小説だ。

舞台はイングランド北東部の北海に面するガーマスと言うとても寒い所だ。ガーマスは架空の土地で著者の出身地のタインマスをモデルにしている。著書の自伝的要素が強く、主人公のチャスのやんちゃな行動はウェストールの子供時代が反映されている。探検ごっこのはずが、本当にスパイを発見するとは。児童文学って童心に返れるからたまに読みたくなる。

 

 1943年にはドイツ軍の敗戦濃厚だったが、それでも頻繁にドイツのUボートイングランドの海域に来ていた。貨物船を撃沈したUボート。それでもUボートを返り討ちにするヘンドン号の船長のバーリー。

Uボートが現れた翌日に浜辺で遊んでいたチャス・マッギル青年が発信器らしき物を発見する。チャスはそれがスパイの発信器だと断定して彼の物語が始まる。チャスと友人のセムとシーラとオードリたちはスパイ探しにロウ・ストリートと呼ばれる貧民街を歩き回る。シーラは父親が元市長の治安判事で権力者だ。イギリスの厳しい階級社会の象徴のような存在のシーラ一家は高級住宅街に住んでいる。

 

 ロウ・ストリートが面白い。浜辺に位置して海の上に柱を建てて粗末な家が並んでいる。宮崎駿の画が上手くロウ・ストリートを再現している。探検するにはとてもワクワクする街だ。ロウ・ストリートを牛耳るマルタ人の女。この街では警察が機能していない。街を支配しているのはマルタ人たちだ。船乗りたちの男を相手にする売春宿が建ち並び怪しげなパブがありユダヤ人が経営する質屋がある。そんな危険な街でチャスは果たしてスパイを見つけられるのか。シーラを貧民街に連れて行ったので警察のお世話になったり、民家に侵入して危うく逮捕されそうになったり筏に乗って船に轢かれそうになったり本当に命懸けだ。

 

第二世界大戦中、多くのスパイが存在した。ゾルゲはソ連の対日政策に大いに活躍した。ドイツのスパイはイギリスに送り込まれたが大半は捕まった。あまり日本では知られていないが、ドイツ人以外にもドイツを支援する人たちも多数いた。大戦中ノルウェー政府はドイツの味方だったしイギリスにもドイツ側についていた人物もいた。そういう人たちは戦後、国家反逆罪で死刑になったが。

最後に宮崎駿の描く食べ物は何故あんなに美味しそうなのだろうか。フライパンで揚げたパンの画がとてもいい。