旅をする木

 

 僕が今手に持っている「旅をする木」は2017年に発行された40刷だ。初版は1999年。ずっと読み継がれている本にはハズレがない。3頁程の小さな物語が33篇。本書には写真は無いが文章だけで十分にアラスカの大地の美しさが伝わってきた。読者の精神にとても良い影響を与えてくれる本だ。

 

 星野道夫は生涯、旅をした。僅か16歳でアメリカまで2カ月間旅行に行った。冒険心の強い人だった。子供の時は北海道に行きたいと思っていた。その延長線上にアラスカがあった。寒い地域に憧れていた星野。一見、アラスカは荒れ果てた不毛な地という印象しかないが、実はその地で古来から住むエスキモーやインディアンが住んでいた。星野はよく現地の人と会って話をした。社交性があって人との出逢いを喜んだ。そして読書家でもあった。彼は十代の頃に偶然、東京の神田の洋書店でアラスカの写真集を手に取り夢中になって読んだ。彼の北国への妄想はどんどん広がっていった。26歳になってアラスカに渡って以後18年間住んだ。アラスカでの非日常の生活は驚きの連続だった。水道が止められても平然と生活をしている老夫婦。長くて暗い冬と短い夏。小さいながらも懸命に生きようとするワスレナグサ。どれもが愛おしかった。

 

 星野のすごいところは、フェアバンクスを拠点にアラスカ中を隈なく探索した所だ。勿論、極寒の北極圏まで足を延ばす。命懸けの旅だ。悪天候で友人のセスナのパイロットを失った。過酷な自然だ。人が住むには大変だ。それでもその荒涼とした大地に人が住み美しい大自然があった。ヨーロッパにある人工的な自然ではなく厳しくて非情な自然だ。星野はカリブーの大群の季節移動を追った。オーロラ、熊や狐、狼、鯨を発見した。そしてそれを写真に収めた。生命の話を一本のトウヒに例えたのが面白かった。死んだ生命はまた新たな生命を生む。生命はそれを繰り返すのだ。

 

もう少し彼の著作を探ろうと思う。