JR 上野駅 公園口

 

 柳美里の作品を読むのは初めてだ。上野公園でホームレスになった男の話。カズさんと呼ばれる、福島県南相馬市出身の男。大家族だった。七人兄弟の長男で、家は貧乏だった。1933年で生まれで天皇と同い年だった。若い頃から北海道に出稼ぎに行ったり、苦労が絶えなかった。30歳の時に上京した。1964年の東京オリンピックの建設工事に従事するために。プレハブ小屋での生活で残業も沢山してよく働いた。そんな時に長男の浩一が亡くなった。まだ21歳だった。あまり親子の関係を築けなかったのを後悔した。一緒に遊んだことも少なかった。20年あまり東京で働いてから、福島に帰郷した。これで妻と水入らずの生活が送れるかと思った矢先、妻の節子も亡くなった。大変、動揺したが、長女の洋子の孫娘が世話してくれた。しかし、孫娘に迷惑をかける訳にもいかないので再度、上京した。そしてそこからが主人公のホームレス生活の始まりだ。そして現代の物語だ。

 

 普段、気付かないが、ホームレスになった人たちには一家離散だったり会社の倒産だったり、何故ホームレスになったのかちゃんとした理由がある。勿論皆なりたくてなったわけではない。ホームレス仲間のシゲちゃんはインテリで上野の歴史に詳しく主人公に色々、教える。西郷隆盛銅像の事や、東京大空襲に慰霊碑の事。ホームレス同士の繋がりは強い。熱燗を一緒に飲んだり、仲間が余所者が段ボールとブルーシートで作ったコヤに入らないか見張っている。収入は空き缶の回収や、雑誌を拾ってそれを売ったりする。寒い時期は一度チケットを買えば一日中居座れる近くにある大人向けの映画館で過ごす。暖房が効いてて中は暖かい。図書館で過ごす人もいる。ある日、山狩りと呼ばれるホームレスの一斉清掃が行われる。公園内のコヤを全て撤去せよと役所がうるさい。2020年に開催される東京オリンピックの為だ。そして311の大震災が起こる。生まれ故郷の浜通り津波に巻き込まれて、孫娘が亡くなる。男はJR上野駅のホームに立っている。目を閉じて被災地の惨状を思い浮かべる。

 

いい読書だった。それぞれ人には背負っている過去がある。街中ですれ違う人や上野や新宿で路上生活を送っている人。著者は上野公園でホームレスの人たちに取材して物語を書いた。柳美里は現在は南相馬市に移住している。震災は彼女の執筆活動に大きな影響を与えた。