アフリカの日々

 アイザック・ディネーセンのアフリカの日々を読了。ずっと積読だった本。中々読む気になれなかった。私の妙な先入観があったからだ。人種差別的な西洋人からみたアフリカ本と私の中で決めつけていた。驚いたのは著者のデンマーク人のディネーセンは最大限の敬意をアフリカ人に抱いていた。彼女の人間性の良さというか、これはすごい事だと思う。本書が書かれた時代の作家たちトーマスマンしかりチェーホフしかりヴェージニアウルフしかり皆有色人種への人種差別的な見方は彼らの著書に見受けられる。私は落胆しながらも当時の時代背景を鑑みると仕方の無い事だと思っていた。しかしディネーセンは肌の黒い人たちと友情を交わし共に働き信頼関係を築いた。

 実に18年もケニアの高台で農園を経営していたのだ。アフリカの日々はその記録である。情報量が半端ない。この一冊読めばかなりアフリカに詳しくなると思う。池澤夏樹氏は本書を読んでケニア行きを決意したそうだ。アフリカ人の伝統お祝い事の日の踊りや歌、ケニアの狩猟について、現地の文化を学ぶ筆者の姿勢は素晴らしい。ディネーセンは非常に逞しい女性なのだと思った。経営者なのだから当然なのだが友人と一緒にライオンの狩に行ったり第一次世界大戦中の支援行動にも彼女の芯の強さが窺える。本書は愛と哀しみという題名の映画化もされていて、そちらも非常に評価が高い。

 アフリカの日々はケニアを舞台にした自然豊かな美しい作品である。特に印象に残ったのは探検家のイギリス人のデニスと一緒に飛行機に乗り空からケニアの大地を見下ろすシーンである。逃げ隠れするバッファローの群れは飛行機の存在を恐れ林の中に固まり息をひそめる。私もいつかはアフリカに行ってデニスとディネーセンのような体験をしてみたい。なおデニスは実在の人物で飛行機事故のアクシデントによりケニアの空港付近で亡くなった。彼のお墓はディネーセンのコーヒー園があるンゴング丘陵に建てられた。

 農園地帯から車に乗って大都会のナイロビに買い物に行ったり禁欲的なインド人の鍛冶屋の職人の性格、ソマリ族とキクユ族とマサイ族のそれぞれの特徴だったり同郷の悲観主義者のクネッセン老とのエピソード、全て大変興味深く読んだ。動物とのエピソードも面白い。ディネーセンは牛や鶏や猟犬と一緒に生活をして一匹一匹の命を大切にして育て上げた動物愛好家の一面もある。特に子鹿のルルへの愛情は親子の関係のようだ。また一冊大切な本が増えた。何回も再読するに値する本だ。