灯台へ 再読

 ウルフの灯台へは前回みすず書房から出ている訳で読んだがちょっと絶版の上に古い訳だったの改めて今度は河出書房の新訳で読んだ。今一般の書店で「灯台へ」が手に入るのは河出書房か岩波文庫かで私は迷わず河出書房の鴻巣氏の訳を選んだ。まずハードカバーなので字が大きく見やすい、また表紙が一面青なのもいい。この小説のイメージにピッタリだ。岩波文庫でも良いと思うが作品への解説、ウルフの年譜が河出書房の方が充実してて作品以外のウルフの生涯も分かるので作品をより深く知るのにも良いと思う。なぜなら灯台へはウルフの自伝的要素が色濃く反映されているのだから。

久しぶりの再読だがやはり名作だと思う。作品全体が詩を読んでいるようで美しい。ウルフの代表作は灯台へかダロウェイ夫人だと思う。私は断然灯台へが好きだ。ダロウェイ夫人は大都会のロンドンで生きる人たちをダロウェイ夫人を中心に内面の描写を書いた物だが、こちらの灯台へスコットランドの海が見える浜沿いの別荘が舞台なので都会には無い、海や浜辺、砂、自然の美しさがある。登場人物も魅力的な人ばかりだ。8人の子供を抱えるラムゼイ夫人は絶世の美女で誰からも愛されて尊敬されている。夫のラムゼイ氏は気難しく自分に自信が持てず精神的に不安定だ。妻や子供たちまでにも同情を買って貰おうと必死だ。氏は哲学者であり夢心地のような気分で思索に耽りブツブツと独り言を言いながら別荘の庭を歩き回っている。夫人は夫を愛してはいるが怒りっぽい夫に怯えているところもある。子供たちも父親が怖い。末っ子のジェイムズは母親が大好きでいつも一緒に行動を共にしてる。別荘にはウィリアムバンクスと言う名のラムゼイ氏の幼馴染や、子供たちから莫迦にされているチャールズダンズリーや多くの人が行き交う。画家のリリー・ブリスコウもその内の一人だ。ラムゼイ氏の別荘で彼女は絵の鍛錬に励む。

 ダロウェイ夫人もそうであったが物語は登場人物の内的描写を軸に進んでいく。灯台へも語り手が次々に移行していくのでたまに誰の内面描写か分からなくなる時があるが、それは大して重要でもないのでゆっくりと読み進める。物語は3章からなっていて1章では別荘での1日を詳細に意識の流れとともに描く。2章ではラムゼイ夫人は既にこの世から去っている。子供も二人死んでいる。別荘が売りに出されるというのでマクナブ婆さんが跡片ずけをしに来る。最終章ではようやく念願だった灯台行きが十数年の時を経て実現するがラムゼイ氏に付き合わされて嫌々ジェイムズと姉のキャムが一緒に行く。

第1章のラムゼイ夫人が主催者となった夕食会の場面は中々面白かった。バルザックトルストイなどの私が知っている名前が出てくると嬉しい気持ちになる。ラムゼイ夫人は言う。どうしてロシア人の名前はあんなに長いのでしょうね。ごもっともだ。私もそう思う。

 後に意識の流れと云われる今までに無かった内面の奥深くを掘り下げた描写の仕方は全く画期的だった。プルーストと並ぶモダニズム文学の代表がウルフである。美術評論家のジョンラスキン、小説家のディッケンズ、ワイルド、画家のミレイを輩出したイギリスの文化が栄えた絶頂期がヴィクトリア王朝時代であった。そこからどうやって全く新しい、既存の芸術から脱却すべきなのかウルフの試行錯誤の結果、灯台への名作を生み出したのだと思う。ウルフの友人で彼女が主催したブルームズベリーの会員であった同じ小説家のフォースターの存在も大きかったのだと思う。私はフォースターのインドへの道と、ウルフの灯台へがイギリス文学で一番好きだ。家の本題に置いて繰り返し読みたい本である。