大地のうた

こういう美しい小説が誰にも読まれずに埋もれているのは勿体無い。Amazonのレビューは誰も書いてない。長らく絶版になったいたのを2008年に新装されたのが本書。ベンガル語からの翻訳でとても瑞々しい日本語。翻訳者に感謝したい。カースト制度の最上位のバラモン階級ではあるがその日暮らしの乏しい家庭で生まれたオプーと姉のドゥルガ。大地のうたは少年オプーの成長期だ。ベンガル地方の片田舎の豊かな自然に囲まれ育ったオプーは筆者の幼少期の体験が色濃く反映されていてオプーは著者の代弁者だ。ベンガル地方は今で言うコルカタバングラデシュにあたりマンゴーの木や沼地、河川、緑が手付かずのまま残っている。筆者はベンガルの自分が生まれ育った村の風習や文化、自然との共存を見事な筆捌きで表した。とても静かに語りかけるような文体で自然描写が多く私は読書中、豊かな気持ちで満たされた。読書が大好きで父親のホリホルの本を乱読し空想好きのオプー。弟とは対照的の姉のドゥルガは毎日、朝から晩まで外で遊ぶのが好きだ。厳しい母親は子供たちに叱りつけたりするがそれでも愛情深くいつも子供たちの味方だ。オプーの村の子供たちとの友情だったり森での散歩、河川での釣り、自然との調和はとても幻想的でどこか懐かしい気持になる。最後に家族が豊かな生活を求めるためにベナレス(バラナシ)に引っ越す事が決まり鉄道から自分の生まれ育った村を回想する所で物語は終わる。1929年に大地の歌は出版されたが、著者のボンドパッダエの文才には些か驚いた。私たち日本人はインドの文学に疎いがインドにも彼のような立派な小説家がいるのだ。私の好きな場面はオプーが河で釣りをしながら空想に耽る所だ。河川の向こう側に広がる草原を眺めているとふとフランスのジャンヌダルクの生涯が脳裏に浮かぶ。勿論、ジャンヌダルクは読書から得た知識だ。続いて小舟に乗りながら、自分もいつかイギリス人のように世界中旅して未知なる国を訪れる機会があるだろうか?自分のような乏しい人間でも偉大な人生を歩むことが出来るだろうか?いや自分の夢は絶対に叶う!オプーの全く根拠のない自信に私は励まされたような気持になった。筆者の優しさもあるのだろう。まだまだ我が国では欧米文学が巷で溢れているが、アジアの文学も忘れてはならない。ベンガル人は非常に読者好きだそうで定期的にコルカタとかの大都市でブックフェアが行われている。大地のうたは私に異次元の読書体験を与えてくれた。ベンガル語が日本語に訳されている事なんて知らなかったし非常に貴重だと思う。本書が全国の書店に文庫化されて多くの読者に読まれるのを期待してレビューを書きました。

 

大地のうた

大地のうた