やし酒飲み 

 

 エイモス・チェツオーラのやし酒飲みを読んだ。とても楽しい読書だった。

 

 奇想天外で神話のような世界。やし酒を鱈腹飲んでいるお金持ちの息子がある日、父が死にやし酒を彼に作ってくれたやし酒の名人が死に友人にも見放されたが決意してまだ天国に行っていないやし酒造りを取り戻すために冒険するワクワクする物語だ。

 

 現実の世界では起こり得ないような事が次々と起こる。頭蓋骨の一家や、妻の親指から産まれた剛力の赤子、願う事が何でも手に入る不思議な卵。旅の途中に白い木に捕まり白い木の内部に回収されたやし酒飲みだったが、木の中では「誠実な母」に親切にしてもらい贅沢な生活を送った。内部にはダンスホールがあり病院まであるのだ。

 

 やし酒造りは死者の町にいると聞いたやし酒飲みは妻と一緒に長い年月を費やして何とか目的地に辿り着く。妻は予言者で必ず彼女の予言は実現する。アフリカの小説では毎回予言者が登場するが一体何処までが本気なのだろうか。妻の予言を信じて幾多の困難を乗り越えてようやくやし酒造りに会った。死者の国では生きている人は住めない。やし酒造りから餞別の卵を受け取り故郷に帰るやし酒飲み。無事家に帰ってきたが、住む町は大飢饉に襲われて皆飢えて死者もでていた。天の神と地の神が喧嘩したのが原因だった。卵に願い事を祈り地上に雨が降り人々は天に感謝して平穏な日々に戻った。

 

 やし酒飲みは自分はやおよろずの神だと自称する。ジュジュを使い(ジュジュには魔法の力がある)追ってから逃れる為に妻を木の人形にしたり自分の姿を小石に変えたりも出来る。飢えた男に喰われてしまっても内部から拳銃をぶっ放し脱出してしまうのだ。もう何でもありの世界。

 

 森林に潜む危険、自分のテリトリーから決して抜け出せない怪物たち。歌って飲んで食べてのどんちゃん騒ぎが好きな人々。勿論、墓場から死者も参加する。南米のマジックリアリズムの先駆者か。

 

 ナイジェリアは本当に文学が盛んな国だなと思った。チェツオーラはヨルバ語混じりの英語でこの本を書いた。訳す方も大変だったろう。彼はヨルバ人でヨルバ人はイボ族を見下していると言う。この作品が出版されたのは1952で大分現在の状況とは違うので分からないが昔は民族同士の争いがあったのだろうか。ちょっとナイジェリアの歴史に興味が湧いた。

やし酒飲みはハードカバーから文庫化され池澤夏樹の世界文学全集にも選ばれた。本当に人気の高い作品だ。