供述によるとペレイラは

 

 須賀敦子の翻訳が好きで買った。アントニオ・タブッキの作品だ。ポルトガルの温暖な気候とは裏腹に1938年はファシズムの魔の手が及んでいた。リスボンで元新聞記者で今は小新聞社の文芸記事担当のペレイラ。彼は妻に先立たれ、心臓も悪く太っていて何だか冴えない人物だ。食欲旺盛でお酒は飲めずレモネードが大好きで1日に何杯も飲む。かかりつけの医者もいる。友人もいなく何時玄関に飾ってある生前の妻の写真に話しかけれるちょっと夢遊病のような状態だ。実際に彼は沢山の夢をみる。ペレイラが暇潰しに読んでいた雑誌に死についての論文が掲載されていた。彼はその論文に関心を持って読み、書いた本人に会いたいと思い連絡を取る。

 

 書いた人物はモンテイロ・ロッシと名乗るまだ大学を出たばかりの青年で雑誌に載った論文は彼の卒業論文だった。彼との出会いがペレイラの運命が大きく変えようとしていた。幾度か邂逅を重ねた内にモンテイロ・ロッシには反ファシズム派の思想の持ち主でマルタと呼ばれる恋人もいた。政府に楯突く若者の勢いはすごい。戦闘に参加するレジスタンスのような若者二人。

 

 1938年とはいったいどういう時代だろう。その年にはヒトラーオーストリアを併合してヨーロッパに戦火が訪れようとした悪夢の時代だった。前年には日中戦争が始まり、ポルトガルの隣国のスペインでは軍事政権と民主派の間で内戦が始まり、スペインのフランコ軍事政権を支持していたドイツ軍による空爆ゲルニカの都市が壊滅的な被害を受けた。

 

 ペレイラは若者二人を匿って手助けする道を選んでしまう。何故だろう。ファシズム政権に狙われている若者二人を手助けするのはとても危険な行為だ。ファシズムの嵐の中では原論の弾圧があった。小さいながらペレイラが勤めている新聞社でも当然、規制があり愛国的な文章を書くように部長から言われていた。それでもペレイラは自由なリベラルなフランスが好きでモーパッサンバルザックの短編を翻訳して載せていた。フランス贔屓だった。精神科医との相談や妻の死を乗り越えて彼は若者二人の味方をするのだ。結末に触れるが最後は新聞の記事でファシズムの民衆の弾圧を暴きペレイラ自身が追われる側の人物になる。

 よく完成された小説だと思う。第二次世界大戦中はスペイン内戦やドイツ、イタリアのファシズム政権の影響がとても強かったポルトガルを舞台にしたのはタブッキの才能だと思う。1994年に書かれた小説。