英米文学者と読む「約束のネバーランド」

 

 集英社新書は少年ジャンプと同じ集英社なので漫画系の新書があってとてもいい。タイトル通り、気鋭の英文学者による「約束のネバーランド」の論考本だ。とても良く書けていると思う。英文学からの影響やジェンダーから見た約ネバ。そもそも少年ジャンプで女性が主役の物語は全く新しい。エマと呼ばれる中性的で身体能力の高くて勇敢な少女が物語を切り開く。

 

 まず僕は約束のネバーランドを読んだ事がないが、とても人気が高く実写化、アニメ化している。GFと呼ばれる施設で育った子供たち。12歳になるまでには必ず外の世界を支配する鬼の餌になる。ある日コニーと呼ばれる幼い少女が出荷されて鬼達に食べられるのを知ったエマは全員で施設からの脱出を計画する。子どもたちは食用児と呼ばれていて外の世界を知る機会がなく自由がない。鬼の住む世界から人間の住む世界にエマ達がたどり着くのが最終的な目標なのだ。

 

 いわゆるディストピア系の物語だ。著者も指摘しているが、カズオイシグロの「私を離さないで」と共通点がある。孤児で囚われの身で最終的には死ぬ運命。女性と言うだけで差別される「侍女の物語」も似たような設定だ。

 

 「約束のネバーランド」は漫画だが、とても文学的なのだ。鬼の世界は階級社会でトップがレグラヴァリマと言う名前の女王鬼だ。著者は約ネバの世界とイギリスの世界に共通点があると述べる。確かにイギリスは階級社会で国を統治しているのはエリザベス女王だ。鬼たちは英語を話し子どもたちもGFで飼育艦から英語を勉強した。

 

イギリスの上流社会では古くからキツネ狩りが行われていた。鬼の世界でも階級の高い位のバイヨン卿が密かに自分の領地で人間の子ども狩りを楽しんでいた。約ネバではイギリスのストーンヘンジに酷似した鬼の遺跡も出てくる。鬼達が信仰する原初信仰とユダヤキリスト教の関係も見逃せない。

 

本書では英文学の歴史が語られるので興味深く読んだ。著者の深掘りする姿勢には感心した。