ヴァージニア ウルフ 燈台へ

 ウルフは私の好きな小説家だ。自分と価値観が似ているからだと思う。彼女に唯一残された快楽が食べる快楽だったのにとか。(ダロウェイ夫人より) 嫉妬の苦しみ(ダロウェイ夫人より)とか。ウルフ自身は10代の頃から母親の死をきっかけに精神に異常をきたし、それは生涯続いた。何回かの自殺未遂を起こし最終的に入水自殺で自らの人生を終えた。フォースターともブルームズ・ベリーグループの集いを通して繋がっていた。ウルフの小説はとても前衛的である。内面の美を描き従来のディッケンズやトルストイ写実主義とは全く異なる方法で小説を書いた。プルーストに近いと思う。プルーストは比喩的な表現が多いのに対してウルフは「意識の流れ」という手段を使った。彼女の作品はモダニズム文学と呼ばれているが、現在でも衰えることのない新しさを保っている小説である。彼女の作品は「ダロウェイ夫人」と「燈台へ」が代表作であり両方とも、とても美しい作品だ。「ダロウェイ夫人」はロンドンに住む人々のあるパーティーが行われる一日をそれぞれの人物の内面を描いた小説だったが、燈台へはスコットランドの孤島の別荘が舞台であり物語はラムゼイ夫妻と息子のジェイムズが明日燈台へ行きたいと話し合っている場面から始まる。この別荘には多くの友人が行き来する。哲学者のラムゼイ氏を崇拝するチャールズ・タンズリや画家のリリー・ブリスコ、ウィリアム・バンクス氏などである。「ダロウェイ夫人」と同様に各章によって語り手が変わってくるのがこの小説のスタイルだ。ラムゼイ夫人の視点を通して景色や人物が語られる時もあれば、リリー・ブリスコの視点ではみえる世界も異なる。登場人物が相手の事、また相手からみた自分のことをどうみえるのか、語り手が変わるとこのような面白さもある。小説の大部分は各人物の内面の描写でそれは比喩的な時もありとても美しい。私が耽美的な小説を読んだ時によく思う読み心地の良い作品だ。いくつか翻訳もあるのでまた違う訳者のを読んでみようかと思った。本書の翻訳も大変素晴らしいが。兎に角よく出来た小説なのでまた再読したい。

 

燈台へ (ヴァージニア・ウルフ・コレクション)

燈台へ (ヴァージニア・ウルフ・コレクション)