悪い娘の悪戯

 

 リョサは偉大な作家だなと思った。緑の家を読んだ時の感想は正直に言ってイマイチだった。ノーベル文学賞の受賞者の作品としては物足りないなと思った。彼の得意分野は歴史小説だ。歴史を取り扱った作品が多い。でも「悪い娘の悪戯」は現代小説だ。現代小説の方は僕は好きだ。ニーニャマラとの40年にも及ぶ重厚な恋愛話。舞台は1950年代のリマから始まり、パリ、ロンドン、東京、もう一度パリ、そして久し振りにリマに帰郷して最後の章ではマドリード。こんな世界を股に掛けた壮大な物語が面白くないはずがない。そしてリョサの知識量が凄い。文化的な知識が沢山出てくる。パリでは最先端の流行を学び、当時ヒッピームーブメントの真っ最中だったロンドンでは音楽が流行でベトナム戦争の反対運動も起こっていた。またエイズが蔓延したのも70年代だった。

 

 恋愛話と言ってもとてもロマンチックな男女の恋愛を描いた作品ではない。虚言癖があって情緒不安定で自分の極貧の出生を隠す為か、金と権力のある男を狙う野心家のリリーはニーニャマラと呼ばれる。悪い娘という意味でリカルドからそう呼ばれている。リカルドはニーニョブエノ(良い子ちゃん)とリリーから呼ばれている。リョサの自伝的な要素を反映しているのか、十代の青年時代にリリーと出逢う。はちみつ色の瞳をしたリリーにリカルドはゾッコンだ。リカルドの夢は憧れのパリに住む事。60年代のパリでユネスコの通訳の仕事をしながらパリの生活を謳歌するリカルド。ひょんな事からリリーと再会するリカルド。彼女は偽名を使い偽物のパスポートでパリに入国した。

 

 リカルドは散々、リリーに振り回れるがどうしても彼女を忘れる事が出来ない。付き合ったり別れたりを繰り返す。彼女の自由奔放な性格に翻弄される。リリーは東京でヤクザの愛人になったり、ロンドンでは金持ちの輸入業の男の妻になったり退屈な人生とは正反対の刺激的な人生を送っている。

リカルドはとても慎ましい性格で中産階級の生活で満足していて地味な存在だ。休みの日にはロシア語の翻訳の勉強をしたり映画を観に行ったり過ごしている。自分とは全く正反対のタイプが好きなのか献身的にリリーをサポートする誠実な人柄だ。日本人のヤクザの男に弄ばれたリリーが病気で倒れリカルドが彼女を看病する場面が僕は好きだ。

 

 この物語はとてもよく出来ている。リョサは話を繋げるのが上手いなと思った。リョサ自身が、リマ、パリ、ロンドン、マドリードに住んだ経験があるからこの物語が誕生したのだと思う。