ハックルベリーフィンの冒険

  いや。面白かった。毎度毎度月並みの発言で申し訳無いが面白かったの一言に尽きる。本書はマーク・トウェインの最も評価されている作品だ。以前に新潮文庫から出ている方を読んだがちくま文庫の方が遥かにいい。まず挿し絵が美しい。やはり活字だけでは少々退屈だ。だから最近は挿し絵付きの本を読んでいる。加島祥造氏の翻訳がとにかく素晴らしかった。加島氏自身も作家であるのでマーク・トウェインの英文を同じ作家としてどう翻訳すればいいのか本書の解説で彼が試行錯誤した事がよく理解出来た。本書は完全版である。第一六章で大筏に乗ってどんちゃん騒ぎをしている男達の幽霊樽の話も漏れなく収録しているので嬉しい限りだ。最近、出版された柴田元幸氏の方ではこの部分は無かった。

 

 本書はミシシッピ川を舞台に黒人奴隷制度で黒人の自由が無かった南北戦争の前の時代の話だ。黒人奴隷のジムとハックは筏に乗って長く広大なミシシッピ川を自由を求めてどんどん南下して行く。ハックは呑んだくれの暴力親父から逃れるために巧妙な手を使って逃げてきた。一方のジムも使用人の主人のダグラス未亡人から逃げてきた。当時の黒人は一家の所有物とされていて黒人の逃亡はご法度でそれに加担する者も処罰され世間一般の常識で言うと良心に反するものだと考えられていた。ただそれでも自分の信念でハックは迷信深いが親切で優しいジムを救い出す。ハックの思慮深さには驚かされる。彼は何事も大衆の意見にとらわれる事なく自らの考え方で物事の是非を決める。黒人奴隷を助け出す事に良心が咎めたり悩んだりもするが、ジムが好きでもあったので一緒に逃亡劇を繰り広げる。少なくともハックからは一切、黒人のジムへの人種的偏見は感じなかった。ハックはとてもいい奴なのだ。名作なので翻訳は多数あるが、私はちくま文庫の加島氏の翻訳が一番好きだ。

 

完訳 ハックルベリ・フィンの冒険―マーク・トウェイン・コレクション〈1〉 (ちくま文庫)

完訳 ハックルベリ・フィンの冒険―マーク・トウェイン・コレクション〈1〉 (ちくま文庫)