失踪者 

 

 読書は何時も根気がいる。じっとして何かを取り組むのって集中力がいるよね。一日一回は必ず読書をする習慣を身に付けようとしている。今までカフカ長編3部作を全部読んだが「失踪者」が一番読みやすくて面白いと思った。「城」は長過ぎて疲れるし、「審判」は物語の途中で法律の説明口調の文章があって退屈だ。一方で「失踪者」はアメリカを彷徨い移動するカール・ロスマン青年の行き当たりばったりの旅だ。カフカアメリカを生前行ったことがなかった。カフカはニューヨークを巨大な金融街だと思っていた。

 女中を妊娠させたロスマンは父母によってヨーロッパからニューヨーク行きの船に乗せられる。船内での伯父との偶然の出会いから旅は始まり、伯父宅でお世話になり、続いて伯父の仕事相手のニューヨーク近郊の別荘で過ごす事になり、そこを離れてたまたま宿で出会ったドラマルシュとロビンソンと一緒に行動する。野宿生活をすると思いきや、ロスマンは夕食を買いに行った「ホテル・オクシデンタル」で調理主任に気に入られそこのホテルで働くことになる。エレベーターボーイとしての仕事を紹介され懸命に働いたが、ある日ロビンソンがロスマンを訪ねてホテルに勝手に来た。体調が良くないロビンソンをロスマンは仕方なく自分の生活する寮に寝かしたが、それがホテルの管理者にばれて部外者を寮に入れた罰としてホテルを追放された。その後ロスマンはドラマルシュと彼の恋人のブルネルダの家に居候する事になる。

 よくカフカは不条理小説だと言われているが確かにそうだ。「城」では測量士のKは仕事を頼まれて城に向かうが目の前に城があるのにいつまで経っても辿り着けない。出会う人々に尋ねるがことごとく翻弄されていく。カフカの代表作の「変身」では朝起きたら虫の姿に変わっていた。虫になった主人公は色んな手段を使って会社に出勤しようとする。あらゆる方法を試してみる。「審判」では「変身」に少し似ている。朝起きたら見知らぬ男たちが目の前に立っていていきなり逮捕され裁判にかけられる事になる。勿論、カフカの不条理は「失踪者」にも出てくる。ブルネルダの家のベランダに閉じ込めれてしまう。ロビンソンと一緒に。ロスマンは早くベランダから出てブルネルダの家から出て、普通の仕事に就きたいのだ。しかしそれが出来ない。ドラマルシュが室内から見張っているからだ。ベランダに追い出されたのを想像してみよう。とても滑稽である。住居はとても高い所にあってベランダから飛び降りる事は出来ない。でもその滑稽な不条理な展開がカフカなのである。

 池内紀氏の翻訳もいい。やはり俺はカフカが好きだ。