遠いやまなみの光

 前回、レビューした浮世の画家がとても良かったのでイシグロのデビュー作でもある本書を読了。ちょっと不明瞭な部分があって正直、解りにくい作品だと思った。悦子は外国人の男性と再婚してイギリスの田舎に住んでいて、長女の景子は自殺して次女のニキとの会話から物語は始まる。この作品も戦後の復興期の日本の長崎が舞台で浮世の画家と同様に過去の回想を用いる。最初の夫は日本人で彼との別れた経緯は全く分かっていない。悦子と現在の夫との馴れ初めも分からない。また現在の夫も物語には一度も登場しない。いくつかの不明点があっても私が最後まで読めたのはイシグロの手腕だと思う。実際にイシグロは長崎で幼少期を過ごしてから一家でイギリスに移住した。だから小説の中の長崎はイシグロの自らの体験を再現していると思われる。まだデビュー作なのでこれから上達する前の段階なのでちょっと物足りない思った。でも良作。長崎の山の麓へとケーブルカーで遠足に行くエピソードが印象に残った。情緒的で過去を振り返る懐かしさがあった。

 

遠い山なみの光 (ハヤカワepi文庫)

遠い山なみの光 (ハヤカワepi文庫)