白鯨

 海底二万マイルのネモ船長は温厚で冷静な人だった。しかし白鯨のエイハブ船長は激情に駆られて自らを破滅に追い込む狂人だ。私は海洋小説が好きだ。浪漫がある上に非日常的な船乗りの世界を味わえる。白鯨はアメリカ文学の古典として有名だ。上下で1000ページほどあるので、読み通すにはそれなりの体力が必要なので今までずっと読むのを躊躇していた。だが海底二万マイルを読破した勢いで白鯨も読んでみた。

 まず、本作の大筋はエイハブという名の熟練の鯨捕りご老人ががモービィ・ディックという名の頭部に白い大きな瘤がある怪物と恐れられている白鯨との戦いだ。エイハブ船長は片脚をモービィ・ディックに食いちきられたた怨念、復讐を果たそうと躍起になっている。モービィ・ディックへの敵討ちがエイハブの人生最大の目的だ。モービィ・ディックへの復讐心でのみ生きていると言っても過言ではない。しかしそれにしても一向に物語中にその怪物は出てこない。最後の3章でようやく現れるのだ。後は延々と鯨の博物学的な知識を聞かされる。著者の鯨学が物語のほとんどを占めているので読んでるのが苦痛になったり退屈だと思うかもしれない。それでも本書は読むに値するのだ。本書は膨大な旧約聖書ヨブ記や沢山の書物からの引用があるので本書を読むだけで鯨のみならず多くの知識が得られると思う。ただそれが本書が難解だと言われる所以かもしれないが。勿論、鯨の情報も満載で鯨の種類、古代から鯨が神聖視されて来たことや鯨から多くの脂が取れる事や白鯨の白さについてや、鯨の全長、骨、鯨の絵画について、鯨漁船の生活、鯨捕りに使う武器、捕殺した鯨をどう解体するか、鯨の味、捕殺した鯨を船の脇に吊るして航海する仕方や鯨についてのありとあらゆる事が理解出来た。

 物語の最後はとても悲劇的だ。ネタバレになるので詳細は伏せておくが、エイハブの無謀な航海、自滅行為に乗船員の全員がまきこまれる。語り手の一人を除いて。本書を読んでいてこの激情家の作家メルヴィルドストエフスキーにも通じる物があると思った。出版当初は全く売れずメルヴィルの死後、時を経て白鯨の評価が高まったようだ。古典として長く読み継がれる本にはやはりハズレはないと思う。私はエイハブ船長との鯨捕り、航海たまに出てくる他船との交流を大いに楽しめたと思う。楽しい読書体験だった。

 

白鯨(上) (新潮文庫)

白鯨(上) (新潮文庫)

 

 

白鯨 (下) (新潮文庫 (メ-2-2))

白鯨 (下) (新潮文庫 (メ-2-2))