世界の果てのビートルズ

 またいい本に出会えた。タイトルが気に入ってずっと読んでみたいと思っていた。フォンランドとの国境付近のスウェーデン最北部の物語だ。著者のミカエル・ニエミの半自伝的小説である。スウェーデンの首都のストックホルムは縦に長いスウェーデン国土の南に位置していてニエミの出身地であるパヤラ村は首都の大都会ストックホルムから遥かに離れた場所にある僻地だ。スウェーデン最北部ではスウェーデン語では無くその地方独特の訛りのあるフィンランド語が使われている。

 パヤラ村にアメリカから来た親戚の子どもが持って来たビートルズのレコードを聴いて初めてロックミュージックに出会う。はっきり言えば田舎が小説の舞台である。凍てつく寒さと川の凍結を除けば何も無い土地で主人公のマッティはロックミュージックに目覚める。やんちゃで無鉄砲な少年期と青年期が物語のテーマである。フィンランド式のサウナで親族と我慢比べをしたり、ネズミ駆除のアルバイトをしたり、初めての女の子とのデートであったり、死んだ婆ちゃんが生き返ってきたり、シベリアに流刑された男の話だったり面白いエピソードが沢山ある。著者のニエミはパヤラ村で大変豊かな思春期を送ったのでは無いだろうか。それに加えて北欧の僻地の自然の厳しさだったり美しさが描かれていて極寒の寒さが伝わってきた。少年たちは無茶をする。密造者で何杯飲めるか競争したり空気銃で争ったり。怪我したり痛い思いもするのだがそれでも彼らは人生を楽しんでいる。

 タイトルは英訳ではpopular music from Vittula で 恐らくこのタイトルでは買わなかったと思う。邦題は世界の果てのビートルズだが実際のところビートルズは殆ど出てこない。このタイトルは訳者の意訳だと思うがとても良いと思う。好奇心が湧くタイトルだし面白そうだ。英語からの二重翻訳だが、全く問題無く読めた。本国スウェーデンで本書はベストセラーになったそうだ。

 

世界の果てのビートルズ    新潮クレスト・ブックス

世界の果てのビートルズ 新潮クレスト・ブックス